SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.70 Rd.6 富士プレビュー 熟成によりパフォーマンスが大幅に向上したHSV-010 GT 苦手意識を払拭し、“天王山”となる第6戦富士大会に挑む

 SUPER GT第6戦は富士スピードウェイが舞台となります。このレースには、大きな意味が2つあります。一つは、シーズン終盤の2戦で軽減されるハンディウエイトが100%課せられる今シーズン最後のレースが、この第6戦富士大会となること。もう一つは、最上位が7位に終わった今年の第2戦富士大会での雪辱を晴らすことにあります。

 率直に言えば、HSV-010 GTはこれまで富士スピードウェイを苦手としていました。優れたコーナリング性能を生かすためにダウンフォースを大きめに設定したHSV-010 GTは、それだけドラッグ(空気抵抗)が大きく、ストレートスピードの伸びという面では不利な立場にありました。このため富士では、せっかくコーナリングで速さを発揮しても、長いストレートでライバルチームに逆転されることが少なからずありました。

 しかし、第6戦富士大会ではこれまでとは違った戦いをご披露できると思います。というのも、8月6日(火)〜7日(水)に富士スピードウェイで行われたSUPER GTの合同テストで、2台のHSV-010 GTが最終日のトップタイムをマークしたからです。しかも、2日目の午後に限っていえば、#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)がトップで、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)が2番手と、Hondaがトップ2を独占する形になりました。

 2日間の総合結果で見ると、1日目にベストタイムを記録したレクサス勢の方がわずかに速く、#18 ウイダー モデューロ HSV-010は3番手、そして#100 RAYBRIG HSV-010は7番手となりますが、それでも#100 RAYBRIG HSV-010とトップの差は0.320秒に過ぎず、#18 ウイダー モデューロ HSV-010はトップと0.149秒差まで迫っています。従って第6戦富士大会では、これまでとは異なり、レクサス勢と同等の戦いを演じられるものと期待しています。

 これまで富士を苦手としていたHSV-010 GTが、どうしてこれほどの進化を遂げることができたのでしょうか?

 理由の一つとして、今シーズンに入ってからも継続的に空力開発を行い、その成果を次々と投入していったことが挙げられます。すでにご紹介した通り、第3戦セパンからは、リアのウイング部とステーの連結部分をウイングの下側ではなく上側に設けたスワンネックと呼ばれる方式のリアウイングを採用しています。実は、レーシングカーのウイングで大きな働きをしているのは、ウイングの上面ではなく下面のため、ここからなるべく障害物を取り除くと空気の流れが改善できます。このようにしてエアロダイナミクスの効率向上を狙ったのがスワンネック方式なのです。これとあわせ、第5戦鈴鹿では新型のフロントフェンダーを採用し、同じく空力の効率を改善しました。スワンネック式リアウイングに比べるとフロントフェンダーの形状変化は分かりにくく、「本当に変わったの?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、空力性能はほんのわずかな形状の違いが大きな差となって表れることがあります。今回の改良が、まさにそれでした。

 これ以外にも2013年モデルのHSV-010 GTはそれまでのサイドラジエーター方式をフロントラジエーター方式に改めて重心高を下げたほか、エキゾーストパイプをサイド出しとしてエンジンのパワーアップを図りました。どちらもシーズン開幕戦より投入していますが(#18 ウイダー モデューロ HSV-010のサイドエキゾーストは第4戦菅生大会より採用)、こうした変更を含んだ形でセッティングがまとまってきたのはシーズン半ばのことです。また、#18 ウイダー モデューロ HSV-010はブリヂストンからミシュランにタイヤをスイッチしたため、マシンとのマッチングで時間を要した部分がありましたが、いまやこの問題は解消され、ミシュランタイヤの性能を最大限発揮できるようになっています。このことは、第5戦鈴鹿大会の結果を見ても明らかです。言い換えれば、これまで実施してきたさまざまな改良が一つにまとまり、HSV-010 GTとして最高のパフォーマンスを発揮できるようになったことが、富士の合同テストで明らかになったといえます。

 また、チャンピオンシップ争いの面から見ても、第6戦富士大会は非常に大切な一戦になると予想されます。

 第5戦鈴鹿大会ではランキング上位のチームが軒並みポイントの大量獲得に失敗した結果、トップグループ内の差はぐっと縮まり、多くのチームがチャンピオン争いに名乗りを挙げる格好となりました。例えば、現在のランキングトップ(42点)とランキング5位のチーム(37点)の間には5点差しかありません。しかも、ランキング11位のチームでさえ現在23点獲得しているので、もしも彼らが第6戦富士大会で優勝し、現在ランキングトップのチームがノーポイントに終わると、その立場が逆転することになります。つまり、GT500クラスのほとんどのチームに逆転チャンピオンのチャンスが残されているのです。

 前述の通り、第6戦富士大会が終わるとハンディウエイトが軽減され、力と力のぶつかり合いがより明確となります。そうした局面を迎える前に、できる限り多くのポイントを獲得し、少しでも優位な立場で終盤戦に臨むことが、チャンピオンを勝ち取る上では極めて重要になります。私たちが第6戦富士大会を「チャンピオンシップの天王山」と捉える理由も、この点にあります。

 では、Honda勢の5チームにはどのような戦いが期待できるのでしょうか?

 最も有望なのは、第5戦鈴鹿大会で優勝して勢いに乗る#18 ウイダー モデューロ HSV-010でしょう。このマシンとミシュランタイヤのマッチングは、今ベストな状態にあるといえます。山本選手とマコヴィッキィ選手は前回の優勝で余計なプレッシャーから解放されただけでなく、大きな自信を手に入れたはずです。今季、全く新しいパッケージを短期間で仕上げてきた童夢チームの実力も第一級といえます。第6戦富士大会でも表彰台を十分狙えるパフォーマンスがあります。

 合同テストでは80kg以上のウエイトを搭載しながら、2日目の午後に2番手と健闘した#100 RAYBRIG HSV-010にも上位入賞が期待されます。実力のあるチーム、実力のあるドライバーというものは、ハンディウエイトが重くなってきたときにこそ、その真価を発揮するものです。その点、現在の小暮選手、伊沢選手、そしてチームクニミツの組み合わせには一片の不安もありません。ここでポイントを積み重ね、終盤2戦では優勝を狙うような戦いができれば、#100 RAYBRIG HSV-010が逆転チャンピオンに輝く可能性が見えてくるでしょう。

 #17 KEIHIN HSV-010(塚越広大/金石年弘組)は、ランキング上位のチームよりおよそ30kgもハンデイウエイトが軽いことが大きなメリットとなります。第5戦鈴鹿大会では、持てるパフォーマンスをフルに引き出せなかった印象が残りましたが、セッティングを煮詰めることにより、第6戦富士大会では本来の実力を発揮することが望まれます。

 第4戦菅生大会で優勝した#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)は、ノーポイントで第5戦鈴鹿大会を終えたことにより、ポイントランキングでは4位から8位に後退してしまいました。彼らもセッティングを煮詰めきれなかったことが鈴鹿での苦戦に結びついたようですが、第6戦富士大会では、菅生でみせた活躍の再現が期待されます。

 今年はまだ#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)の快走がみられていませんが、昨年は終盤2戦で2連続表彰台を獲得しています。今年もいよいよシーズン終盤なので、第6戦富士大会では#32 Epson HSV-010の奮闘を期待したいところです。

 今シーズンも残すところあと3戦。Hondaは「ただの一戦も無駄にはできない」という強い意志を持って戦って参りますので、引き続きHSV-010 GTへのご声援をどうぞよろしくお願い申し上げます。