SUPER GT 2013 GTプロジェクトリーダー 松本雅彦 現場レポート
vol.60 Rd.1 岡山国際プレビュー より速く、より強く生まれ変わったHSV-010 GT 公式テストで開発の成果を確認

 3月16〜17日に岡山国際サーキットでSUPER GT公式テストが行われました。これは、SUPER GT開幕戦岡山国際大会に向けた総仕上げに当たるもので、GT500クラスでは今年エントリーする全15台が参加しました。

 結果から申し上げれば、2日間の走行でトップタイムをマークしたのは#17 KEIHIN HSV-010(金石年弘/塚越広大組)で、記録は1分21秒828でした。さらに、#100 RAYBRIG HSV-010(伊沢拓也/小暮卓史組)が1分22秒455で7番手、#18 ウイダー モデューロ HSV-010(山本尚貴/フレデリック・マコヴィッキィ組)が1分22秒750で9番手、#8 ARTA HSV-010(ラルフ・ファーマン/松浦孝亮組)が1分22秒995で12番手、#32 Epson HSV-010(道上龍/中嶋大祐組)が1分23秒203で13番手という結果を残しました。

 開幕直前のテストでHSV-010 GTがトップタイムを獲得できたのは喜ばしいことですが、ニッサンとレクサスも僅差で2番手、3番手につけており、全く予断を許さない状況です。また、今回のタイムは昨年の開幕戦におけるポールタイムとさほど変わりませんでした。従って、マシンの進化分を差し引いて考えると、コースコンディションはあまりよくなかったと推測されます。このため、もしも本番を迎えてコースコンディションがさらによくなった場合、3メーカーの力関係が微妙に変わってくる可能性もあります。言い換えれば、今シーズンも拮抗した戦いが繰り広げられると予想されます。

 そうした中、Hondaとしては今回のテストで今年の開発方針が間違っていなかったことが確認できました。例えば、#17 KEIHIN HSV-010を走らせた塚越選手は、テスト後に「マシンが滑り始めてからのコントロールがしやすく、滑り出してからもそれを抑えることができる」とコメントしています。これは、マシンのピーキーな部分が従来よりも減り、よりコントローラブルになった証明だと考えられます。

 2013年モデルのHSV-010 GTに関するストーリー(http://www.honda.co.jp/SuperGT/spcontents2013/2013_matsumoto/)でもご説明したように、今年は従来のサイドラジエーター方式を一般的なフロントラジエーター方式に改めるとともに、前輪の直後に排気系のテールパイプを置くサイドエグゾーストを採用しました。このレイアウト変更により、サイドラジエーター方式に比べて重心高が目に見えて低くなりました。塚越選手がコントローラブルと言ってくれたのも、この低重心化が効いていると思われます。

 一方、Z軸回りのヨーモーメントという観点からいえば、サイドラジエーターをフロントラジエーターに変更すれば多少の悪化は避けられません。ただし、2013年モデルでは冷却系や排気系などの軽量化を行うことで、従来よりも多くのバラストを搭載できるようになり、これらを適性に配置することでヨーモーメントの悪化を最小限にとどめました。

 こうした取り組みが効果を発揮し、塚越選手のコメントにつながったわけですが、マシンの特性からピーキーさを取り除くことができればセッティングのスイートスポットが広がり、これまでよりも短時間でマシンのバランス取りができるようになると期待されます。セッティング作業に時間がかかる点こそ、2012年型HSV-010 GTの弱点の一つでしたので、スピーディーなセッティングが可能となったニューモデルは実戦における戦闘力が間違いなく向上するはずです。

 また、今シーズンはドライバーの組み合わせを大きく見直したことも重要なポイントでした。この点について、各チームの状況をお知らせしましょう。

 まず、ファーマン選手と松浦選手が乗る#8 ARTA HSV-010ですが、2人のドライビングにぴったりマッチしたセッティングを見つけ出すことが当面の課題となります。また、GT300クラスからGT500クラスに新たに加わった松浦選手にとっては、レース中に抜かれる立場から追い越す立場に変わるので、これにどう対処できるかという点もポイントとなるでしょう。この2つを克服できれば、#8 ARTA HSV-010は一気に上位争いに絡んでくると期待されます。

 #18 ウイダー モデューロ HSV-010は、これまでHSV-010 GTで使ったことのないミシュランタイヤを装着することになります。言い換えれば、他社のマシンで開発されてきたタイヤを履くことになるので、それをいかにHSV-010 GTとマッチさせていくかがポイントとなります。新加入のマコヴィッキィ選手は非常に速く、またミシュランタイヤに関する経験も豊富です。一方、山本選手にはミシュランタイヤに関する経験はありませんが、HSV-010 GTについては深く理解しています。従って、今後は2人の経験をいかに結びつけて、HSV-010 GTの開発に役立てていくかが重要になるでしょう。今回のテストでは上位陣に絡むようなタイムは出せませんでしたが、もっと気温が上がってミシュランタイヤの本領が発揮されるようになれば、こちらもトップ争いに加わってくると思われます。

 #32 Epson HSV-010では松浦選手同様、中嶋選手がGT300クラスからGT500クラスに新たに加わりましたので、やはり彼もGT300クラスのマシンを抜くテクニックを磨かなければいけません。また、#32 Epson HSV-010が使用するダンロップタイヤは、昨年以上のペースで開発を行う計画になっていますので、今年は確実に成績が上向いてくると期待しています。

 今季の#17 KEIHIN HSV-010はHonda勢として唯一、ドライバーの組み合わせが変わっていません。その意味では安心です。しかも、金石選手がシーズン前にドライビングスタイルを変更した結果、セッティングの方向性がより塚越選手と近づくとともに、スピードも向上しました。今年も間違いなく大活躍してくれるはずです。

 新たに小暮選手が加わって伊沢選手とペアを組むことになった#100 RAYBRIG HSV-010については、一部に「エースドライバー2人の組み合わせで上手くやっていけるのか?」と心配する声もありましたが、小暮選手も伊沢選手も、相手の足を引っ張るようなことはせず、2人で力を合わせてマシンの開発に取り組んでいます。また、セッティング面ではもともと速かった#100 RAYBRIG HSV-010をベースにしていますが、小暮選手が#18 ウイダー HSV-010の開発で得たノウハウをチームに持ち込んでくれるので、#100 RAYBRIG HSV-010と#18 ウイダー HSV-010のいいとこ取りに近いマシンに仕上がりつつあります。今回のテストでは目立ったタイムを残していませんが、これはタイムを追求するような走り方をしなかったからで、マシンの仕上がり具合としては全く不安がありません。開幕戦では必ずや優勝争いを演じてくれると信じています。

 というわけで、今季はマシンの開発が順調で、各チームの体制もより強化されているので、2年ぶりとなるタイトル奪還を実現して、HSV-010 GTの最終シーズンを締めくくりたいと考えています。これからも5台のHSV-010 GTに熱い声援をお送りくださいますよう、お願い申し上げます。