• トップページトップページ
  • スーパーフォーミュラについてスーパーフォーミュラについて
  • チーム/選手紹介チーム/選手紹介
  • レースレース
  • 特集特集
  • 年度別アーカイブ年度別アーカイブ

エンジニア

江藤 大二朗 / 河合康平

研究所でスーパーフォーミュラのエンジン開発に取り組んでいるHondaの技術者にとっても、0.001秒を真剣に追い求める姿勢はドライバーたちとまったく変わらない。テクノロジーと真摯に向き合い、わずかな性能の進化をていねいに積み上げていくその地道な作業にスポットライトをあててみよう。

“技術者としてもっとも成長させてくれるのがモータースポーツ”

―― 河合さんは現在、パワーユニット開発室の研究グループに所属していますが、研究所のなかでも特にモータースポーツ関連の部署を希望したのはなぜですか?

河合康平(以下、KK):Hondaに入ったときはモータースポーツ関連を特別強く希望していたわけではありません。入社後、配属された大きな室課には7つのグループがあって、そのひとつひとつを1週間ずつかけて体験させてもらう期間がありました。このとき、レース用エンジンを開発している部門がいちばん仕事のスピードが速く、やりがいもあるうえ、自分が技術者としていちばん成長できそうと感じたので、この研修を終えたとき、期間中に学んだものをすべてファイルにまとめ、トップの方にこのファイルを提出するとともに、「是非、レース用エンジン開発を担当させてください」とお願いしました。

―― それ以前は、モータースポーツに興味を持ってはいなかったのですか?

KK:私は鈴鹿サーキットがある三重県の出身で、両親がレース好きだったので、幼稚園のころはF1日本GPに連れていってもらうなど、小さいときからレースが身近にあるという感覚はありました。

―― それはいつ頃ですか?

KK:Hondaが第二期F1で活躍していた1990年前後で、現在、スーパーフォーミュラのプロジェクトリーダーである佐伯昌浩さんが最前線で戦っていた当時のことです。

―― そうした体験も、モータースポーツ担当を願い出たことと関係があるのでしょうか?

KK:それはありました。そして実際に配属されたときには「子供の頃に身近に感じていたレースを実際に自分が担当するなんて……」という感慨を覚えました。

  • 仕事について語る河合

    拡大

  • 走行データをもとにミーティング

    拡大

“パワープラント開発室は毎日が学びの場”

―― 大学時代にどのようなことを学ばれたのか教えてください。

KK:4年生のときは直噴エンジン用インジェクターの開発を企業と共同開発していました。

―― そういった経験は現在の仕事に役立っていますか?

KK:いまはスーパーフォーミュラ用とSUPER GT用のエンジン開発を担当していますが、どちらも直噴エンジンなので、大学で学んだことに近づいてきたと感じています。ただし、業務ではインジェクター周りだけでなく、燃焼プロセスなどエンジン開発全般を広く担当しています。

―― 入社してから学んだことは、なにかありますか?

KK:たくさんあります。特に佐伯さんからはとても多くのことを学んでいます。

―― それはどのようなことでしょうか?

KK:佐伯さんと一緒にサーキットに出向くことがありますが、同じ時間をサーキットで過ごしているはずなのに、佐伯さんのほうが圧倒的に多くの情報を得ていることに驚きます。たとえば、レーシングカーがストレートを走り抜けていっただけでも、その音を聞いて「ギアレシオがあっていないね」と指摘することがあります。

―― エンジン開発に必要となるアカデミックな知識だけでなく、レーシングエンジンの開発では特に重要となる現場での経験も豊富ということですね。

KK:はい、そうです。研究所で開発したエンジンのパフォーマンスを現場で最大限引き出し、ドライバーに勝ってもらうことが私たちの仕事なので、結局のところ、レースで結果が出なければ私たちが評価されることはありません。

  • 佐伯プロジェクトリーダー(左)

    拡大

  • エンジン開発全般を広く担当

    拡大

“0.001秒の重み”

―― そうしたレースの現場では、時として0.001秒が勝敗を分けることもあります。

KK:この企画のお話をいただいたとき、私はちょうどギアシフトのセッティングを行っていました。実はエンジン関連のセッティングは私たち研究グループが担当しているのですが、セッティングで煮詰められる限界的な領域がちょうど0.001秒の世界と重なります。ですから、もしも0.001秒差で負けたとすれば、「ああ、あのときあと一馬力でも出しておけば、セッティングで0.001秒詰めておけば勝てたのに……」と思うことはあります。

―― いっぽうで、レーシングカーのセッティングではドライバーの感覚も重要な位置を占めるのではないでしょうか?

KK:はい、技術者の立場でいえば、ドライバーは本当にすごいセンサーの持ち主だと思います。先日もエンジン過給圧の過渡特性を1%も変えていないのに、伊沢拓也選手に「セッティング、変えたでしょ?」と指摘されました。

―― そういったドライバーの方々と仕事をしていて、充実感を味わえるのはどのようなときでしょうか?

KK:やはりセッティングに関係するデータを変更したり、違う仕様のエンジンを投入したときに、ドライバーからポジティブなコメントをもらえたときですね。ただし、たとえネガティブなコメントでも、自分たちが作業したことをしっかりと反映した言葉であれば、同じように嬉しく思います。

  • エンジン調整の様子

    拡大

  • 無線でセッティングをチェックする伊沢選手

    拡大

“Hondaにある「雑草魂」”

―― 技術者として働いていて、Hondaはどのような企業だと捉えていますか?

KK:私たちのように研究所に勤務していても、泥臭いこともやれば何でもあります。そんな“雑草魂”のようなところが、Hondaにはあると思います。

―― なぜ、そうした姿勢で仕事に取り組むのでしょうか?

KK:妥協をしたくない、というのが最大の理由だと思います。レースというと派手な世界に見えますが、その表舞台の裏には、たくさんの方々の努力が積み重ねられています。そもそも、Hondaもレースに参戦しているいっぽうで、様々な製品を作っている。私たちがレースに挑むことができるのは、様々な製品を作り、販売する方々のおかげでもあるので、そういった認識も大切にしなければいけないと心がけています。

―― そのような姿勢にもHondaスピリットは表れているといっていいのでしょうか?

KK:先ほど“泥臭い”と言いましたが、私自身、普段はこのユニフォームではなく、ツナギを着て油まみれになって作業しています。私が考えるHondaスピリットにはそんなところもあって、自分のことは気にしないで、できる限りの努力をすることも含まれていると思います。

―― そのように作業していて、いちばん嬉しい瞬間は何ですか?

KK:やはり、レースで結果が出たときですね。それはシーズン中の1勝もそうですが、最終的にはシリーズでタイトルを勝ち取ることが目標です。8月20〜21日に開催される第4戦もてぎ大会では、2016年シリーズ後半戦のために用意した新仕様のエンジンを投入します。先日実施したテストでもドライバーからかなりいいコメントが寄せられたので、是非、このエンジンでたくさん勝利を挙げて欲しいと願っています。

研究所で日々テクノロジーを磨き、ドライバーやチームの戦いを支えるHondaの技術者たち。普段は表舞台に出てくることが少ないない彼らの努力が、エキサイティングな戦いを生み出すもうひとつの原動力でもある。ここで誕生したテクノロジーは、いつの日かHondaの製品となって路上を走り始めることだろう。