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NSXを開発したHondaのスポーツカー好きエンジニア、上原繁さんがつくった最後の作品が2007年モデルのS2000 TYPE Sであった。上原さんがHondaを去ってしまったのは寂しいが、上原さんの考えで作られたNSXとS2000は世界のスポーツカーに与えた影響は少なくないだろう。
S2000はHondaの生誕50周年に合わせて開発されたスポーツカーだったが、エンジンメーカーらしく、量産車でもエンジンが9,000回転も回る超高回転エンジンが売りであった。2.0リッターで250PSを絞り出すエンジンは、世界でも希な存在だった。とにかくリッター当たり125PSというパワーは、今の時代では世界一だ。
しかし、上原さんはエンジン屋ではなく、どちらかというと運動性能を専門とするシャシー屋としての誇りを持っていた。そこでS2000に与えたキャラクターは、NSX譲りの軽量化と重量バランスであったわけだ。
また、S2000のエンジンは低速トルクにもの足りなさがあったのも事実で、のちにアメリカへ2.2Lに排気量を拡大したエンジンが投入された。最後にマイナーチェンジされたTYPE Sは、この2.2Lのエンジンを使っている。NSXのTYPE Rほどのホットなスポーツカーではないが、実用性とスポーツ性をバランスした究極のFRスポーツカーだったかもしれない。
S2000が開発された鷹栖ワインディングでTYPE Sをドライブしたことがあったが、凹凸の路面でもロードフォールディングが良く、しなやかなサスに進化したと感じた。
TYPE Sは、速さと快適性を追い求めたモダンなスポーツカーであるが、筑波サーキットでは1分8秒前半で走りきる。オールラウンドのタイヤを履いていることを考えると立派な速さだ。
エンジンは中速のトルクが改善されているので走りやすいし、重量配分の良さとLSDのおかげで、スロットルを積極的に開けることができる。文字通り、エンジンパワーを無駄なく路面に伝えるという上原さんらしい合理性を感じる。そう、上原さんはエンジンパワーで速いスポーツカーをつくることは好きでない。昔、Hondaの川本社長から「排気量を大きくしてパワーを出すのはバカでもできるぞ」と脅かされたことがあった。小さなエンジンをぶんまわし、軽くつくると速くなる。これをスポーツカーづくりの「エンジェルのサイクル」と呼んでいるが、大きなエンジンは重くなるので、ますますパワーが必要となる。その結果、重いスポーツカーが生まれてしまう。これを「悪魔のサイクル」と呼んでいる。
ライトウェイトスポーツカーの良さは限界の動きが穏やかだから、「直感的に操縦できる」のだ。この直感力が「人馬一体感」を産み出す源泉なのだ。
武蔵工業大学電子通信工学課卒業。海外レースにも積極的に参戦し、豊富なレース経験を持つ現役のレースドライバー。1982年よりモータージャーナリストとして執筆活動を開始。運動性能を科学的に分析する論評は支持者が多い。自動車専門誌「NAVI」でクルマの安全性を客観的にテストする連載は人気が高い。日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員。レース活動とともにNSXオーナーズ・ミーティングの特別講師を務める。NHKクローズアップ現代では準レギュラーとして自動車安全問題で出演。