モータースポーツ > CBR600RR ボンネビルスピードウィークでNew World Record

New World Record

真っ白な平原を舞台に、世界中から猛者が集い、2輪や4輪で極限のスピードに挑む競技がある。それが「ボンネビルスピードウィーク」。今年行われたこの大会で、P-P650クラスに出場したCBR600RRが、世界最速記録を樹立。その記録は時速170.828マイル(時速274.921km)
ただ、開催地、競技内容など、ほとんどの読者が初見のはず。まずは約3分のムービーでその全体像をチェックしよう!

自然の不思議。地平線の果てまで続く単色の世界

標高1280mに位置するため、気圧が870hpaと低い。標高が高いとはいっても、8月の気温は例年38℃ぐらいまで上昇する
標高1280mに位置するため、気圧が870hpaと低い。標高が高いとはいっても、8月の気温は例年38℃ぐらいまで上昇する

この平原は、アメリカ西部のユタ州に位置し、ロサンゼルスから北東に約850km。もともとは人類が誕生する以前に存在した巨大塩湖の一部であり、現在は干上がって、辺り一面が塩でおおわれています。この塩湖跡はボンネビル・ソルトフラッツと呼ばれ、その広さが412km²と、琵琶湖の約3分の2に相当します。


この地が一年に一度、8月のおよそ1週間にわたって、世界中の2輪、4輪ファンから注目を集めることになります。なぜなら、世界最速を目指すイベント「ボンネビルスピードウィーク」が開催されるからです。


この大会の歴史は古く、今年で65回目を迎えましたが、“最高速を巡る戦い”としては、20世紀初頭から行われており、国際的なモータースポーツ連盟には属していないながらも、毎年多くの参加者、観客が集まります。


見どころは、もちろん塩の上での走行。塩の上を走るということは、MotoGPやF1で利用されるアスファルトでもなければ、モトクロスのダートでもないため、滑りやすく、スピードが乗った際は、まっすぐ走ることさえ困難になります。





過度のセッティングは許されない。ありのままで勝負



「ボンネビルスピードウィーク」には、50ccのバイクや、クラシックカー、さらにはロケットエンジンを搭載したロケットカーが出場する部門など、7つのカテゴリーがあり、そこからさらに改造の度合いなどによって数十のクラスに分かれています。また排気量によっても細分化されています。


今回、CBR600RRが世界最速記録を更新したのは、P-P650(プロダクション650cc)というクラスです。このP-P650クラスは、以下の条件を満たしているマシンが出場可能です。


P-P650クラスの参加条件
・排気量650cc以下のバイクであること
・量産の排気量を守ること(ボア、ストロークの変更不可)
・保安部品以外の外観パーツの取り外しおよび変更不可
・市販以外の改造パーツの使用に制限あり
・市販タイヤ推奨


P-P650クラスの「P-P」とは、「Production Production」の略であり、生産車ベースで、車体もエンジンの形態も規定された範囲内にあることが参加資格となります。自由なセッティングが許されないこのクラスでは、マシンが本来備えているスペックが重要になります。


また、計測方法もクラスによって異なります。P-P650クラスでは、全長5マイルを走行して計測。下の表の計測区間A(1マイル)、計測区間B(0.25マイル)、計測区間C(1マイル)の3カ所で、通過時間をもとに、それぞれの区間の平均速度を算出します。そのため、瞬間的なスピードではなく、計測区間をどれだけ短い時間で走り抜けられるかが重要になります。そうして出されたA〜Cの3つの記録のうち、最も速い一つが、公式記録として採用されます。


計測方法
計測方法

なお、公式記録のための走行は、Qualify(計測走行1回目)とRecord Return Run(計測走行2回目)の2つがあります。Qualifyにおいて、上記の方法で出された記録が既存の世界最速記録を超えなければ、次のRecord Return Runには進めません。2回目の計測となる、Record Return Runも同じ条件で行われ、走り終わるとすぐに1回目と2回目を合算した平均速度が出され、既存の世界最速記録を超えていた場合には、車両検査を経て、新記録の更新が認められます。


CBR600RRはこのP-P650クラスにおいて、これまでの最高速記録である、時速165.994マイル(時速267.141km)に挑みました。

CBR600RRは、日本でおよそのセッティングを施した上で、アメリカに船で送り、出場した
CBR600RRは、日本でおよそのセッティングを施した上で、アメリカに船で送り、出場した




9年間破られなかった記録のその先へ

塩の路面では、時速149マイル(時速240km)を超えたあたりでトラクションが抜け、マシン後方が不安定に。また、ギャップでハンドルが振られやすくなる
塩の路面では、時速149マイル(時速240km)を超えたあたりでトラクションが抜け、マシン後方が不安定に。また、ギャップでハンドルが振られやすくなる

今回、時速170.828マイル(時速274.921km)で新記録を樹立した、本田技術研究所 2輪R&Dセンター熊本分室の所員である横川俊二さんたちは、P-P650クラスへの出場にあたり、まず、CBR600RRのセッティングを行いました。許される制限の中で、最高速を目指すのに特化した仕様にするため、バラスト(重り)で積載重量を上げ、リアサスペンションのセットアップを敢行。また、エンジン出力を向上させるため、HRC販売キット組み込みエンジン、PGM-FIセッティングツール、主催者供給のガソリンを使用しました。


8月10日に「ボンネビルスピードウィーク」が開会すると、初挑戦となるチームは、ルーキーということで、13日にLicence Runを走ることになります。Licence Runとは、記録更新に挑戦する資格を見極めるテストであり、必要なライセンスはクラスごとで異なります。例えば、150マイル以下のスピードしか出ないクラスではDライセンスが、時速175マイル以下で走るマシンは、Dライセンスに加えてCライセンスが必要となります。P-P650クラスでは、D、Cライセンスのほかに、時速200マイル以下での走行を許されるBライセンスが求められます。このLicence Runは13日に行われ、CBR600RRは、それら3つのライセンスを最短の3回で獲得しました。なお、それ以上の速度で走行するクラスでは、また別のライセンスが必要です。

新記録樹立までの流れ

Licence Runをクリアしたあと、2度のQualify通過とRecord Return Runへ挑戦、記録を伸ばしていき、最終的に、14日に行われた3度目のQualifyで、時速172.249マイル(時速277.200km)をマークしたCBR600RRは、その時点での世界記録を8.255マイル上回り、Record Return Runに進出しました。その後、1時間以内にQualifyの結果を申告し、4時間だけ与えられたセッティングの時間でマシンを調整。それが過ぎるとマシンは保管され、一切触れることができなくなりました。この4時間が、今回の記録への挑戦における、最後のセッティング時間でした。


翌15日に、チームは2回目の計測となるRecord Return Runに臨み、時速169.408マイル(時速272.628km)を記録。Qualifyでの最も速い記録と、Record Return Runでの最も速い記録の平均速度は、時速170.828マイル(時速274.921km)となり、これまでのレコードを上回ったため、そのあとに車両の検査に臨み、無事に通過したことで、9年ぶりとなる新記録として認められました。