玉田選手もジャンルカ・モンティロンについて語った。
「上下関係でもないし、だからといって友達というのとも少し違う。切れ者で、いいヤツ、としかいいようがないです。ルカは、僕のためにいつも寝ずに働いてくれていますからね。性格は、うーん、陽気。」
そんな言葉を聞くだけでも、玉田選手とモンティロンの信頼関係の篤さは充分に伺える。この関係が築き上げられたのは、やはりモンティロンの誠実な性格によるところが大きいようだ。
 「ルカは、言ったことは必ず全部やるんです。時間も守りますよ。遅れるときでもちゃんと電話をくれるし、遅れたらいいわけをせずにまず謝る。イタリアではなかなかいないタイプ。きっと、原田（哲也）さんと長い間やってきたから、日本人のことがわかってるんでしょうね。最初の頃は、きっと調子いいことを言ってるだけなんだろうなと思ったけど、自分が言ったことは全部するのを見て、すごいな、と。絶対に裏切らないんですよね。だから、僕も絶対にルカを裏切らない。初めて会ったときから、その印象は今でもずっと変わりませんね」
では、そのような誠実さが逆に裏目に出てしまうような欠点のようなものも、あるのだろうか。
「ないですよ。欠点なんて思ったこともないですね。そうだなあ、あえて言うなら、体大きいのに少食なところですかね（笑）。少食なのに、何でこんなに太っちゃったの、みたいな」
今でこそ、絶大な信頼の絆で結ばれているモンティロンと玉田選手だが、出会った当初はやはりコミュニケーションに苦労することもあったという。玉田選手が参戦を開始した2003年シーズンの開幕を間近に控えたプレシーズンテストでのことだ。
「ヘレスだったかバルセロナだったか、細かい場所は覚えてないんですが、チームで夕食に出かけるときに、皆は後から来ることになって、僕とルカだけが先にレストランへ行ったんですよ。当時は言葉も全然わからないから『どうしよう、何もわかんないや』って思ったんだけど、とりあえずふたりで先に店に行って、皆が来るまでの間、ルカが笑顔で一所懸命話しかけてくれるんです。きっと、すごく簡単な英語だったんだろうけど、当時の僕はそれすら理解できなかった。仕方ないから『全然わからないけど、とりあえず笑っておけばいいや』ってゲラゲラ笑ってたんですよね。そしたら、後ろの席に大ちゃん（加藤大治郎選手）のチームがいて、メカニックたちが大ちゃんに訊ねたそうなんですよ。『マコトは英語かイタリア語を喋れるのか？』『いや、喋れないよ』『じゃあ、なんであいつはあんなに笑ってるんだ？』って。しばらくしたら、後ろから大ちゃんがやってきて、『たまやん（玉田選手）、何語で話してんの？ 英語、イタリア語？』『英語かイタリア語かもわからないよ。愛想笑いだよ、愛想笑い』って(笑)。でも、表情を見ればわかりますよ。表情としゃべり方を見れば、気持ちはわかる」
 玉田選手が最初に言った“いいヤツ”という表現が、まさにぴったり来るようなエピソードだ。だが、世界の頂点でチームを統率する人物だけあって、もちろん、温厚一辺倒というわけではない。モンティロン自身が「ライダーがレースに集中でき、落ち着けるコンディションを整えることは、我々の仕事の重要なポイント」と語るだけあって、玉田選手の前では厳しい一面を出さないように心がけているようだが、玉田選手はそんな側面も何となく感じ取っている。チームのスタッフと真剣な表情で話をしているときの、スタッフ個々の表情や様子を見れば、「自分の知らないところで、こうやってチームをまとめているんだなあ」と感じる、という。おそらくそんなモンティロンの姿も、玉田選手が信頼を寄せる一因になっているのだろう。
「彼以外のイタリア人、あるいは他の国でも信用できる人がいるかと訊ねられたら…名前が出てこないですからね。仲のいいイタリア人はたくさんいるけど、本当に信頼できるのはルカだけなんです」
だからこそ、夜も寝ずにチームの切り盛りや運営に全力を尽くすモンティロンの姿をみるにつけ、玉田選手は特にこの二年間、ふがいなさや申し訳なさを感じるという。
「もう本当に、それは強く感じているんですよ。だって、してもらうだけ、与えられるだけ、ってのは嫌じゃないですか。だから特に、去年と今年は本当に申し訳ないと思ってるんです。僕は結果でしか返すことができないから、いいリザルトを出して少しでもお返しをしたい。ルカのためにレースを走ってるわけではないけど、でも、そうやって結果を残すことが、ルカをはじめチームの皆に報いることになるわけですから」
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