HONDA The Power of Dreams

「世界選手権の最終戦となるツインリンクもてぎでは、2日間とも1位を取るしかチャンピオンを狙う道がないので、守りの気持ちを一切捨てて大きく勝負をしたいと思います」
　藤波選手の今年の世界選手権の成績は、7戦14レース中3勝。それ以外はほとんどが表彰台獲得のシリーズ2位。トップを行くのは、同じmontesa HRCのドギー・ランプキン選手。最終戦のもてぎを控えた二人のポイント差は30点。2日あるレースの1日目で藤波選手が優勝しても、ランプキン選手が8位以内に入れば王座が決定してしまう。チャンピオンを賭けた背水の陣のレースなのだ。
「初日に6位以内に入れば2位は確定。だから上を見るだけ。ポイント差はあるけど最後まであきらめない」
　藤波選手は、まっすぐに前を見つめ闘志を漲らせながらそう語った。今シーズンは、特に審判の判定に不満な点も多く、彼いわく「勝てたレースをいくつも落とした」不運のシーズンだった。トライアルは、止まったり、後退したりするのを審判が見て減点の判定を下す競技。納得できない悔しさを噛み潰しながらも「完璧に走れば何も問題ない。絶対に何も言わせないような走りをしたらいいんだと自分に言い聞かせています。審判に付け込まれる走りをした自分が悪い」と前向きな姿勢を崩していない。

　彼がトライアルをはじめたのは父親の影響である。赤ちゃんのときからトライアル好きの父親に連れられ、週末を練習場やレース場で過ごしていた。そして、“おしめ”をしていた頃から自転車で父のまねをはじめ、2歳の頃にはHonda QR50という子供用バイクに乗っていた。そして、小学校3年生のときに自転車のトライアル競技で全日本1位に。小学校5年の11歳には、全戦全勝で自転車トライアルの世界チャンピオンとなった。
　1991年、小学6年生のときからオートバイに絞り、1995年には全日本チャンピオンの座を獲得。免許を取り1996年から世界に挑み、いきなりシリーズ7位に。世界シングル入りの最年少の記録をつくる。1997年にHondaワークス入りし、世界選手権を4位、５位、2位と駆け上がった。そんな彼は、世界のトップライダーから“フジガス”と呼ばれている。“ガス”はスペイン語で“全開”の意味。藤波選手がいつもエンジン全開で熱い走りをすることから付けられたニックネームだ。

　まさに“天才”と呼ぶにふさわしいプロフィールだが、彼は「地道な努力と練習なしで今の自分はあり得ない」と天才説を否定する。自転車の“ウイリー”からはじまり、一歩一歩努力を重ねて技を磨いてきた。いつも、「人より完璧な美しさ」をめざして。
　そして生まれてはじめてのレースでは、「朝飯が喉を通らないほど極度に緊張」したことを今も鮮明に記憶している。上手くなる秘訣は、「人一倍の練習と、やらされているという気持ちではなく、自分からやろうという意欲を持つこと」だ。

　「トライアルの面白さは、道なき道をいくことです。当たり前のことですが、これが一度やったらやめられないトライアルの魅力ですね。最初は10cmの石を超えるだけでも、自分にとっての道なき道。それをクリアしてガッツポーズをして、もっとすごい難関に挑む…。それを繰り返し徐々にエスカレートしていくと、世界選手権のレースコースをクリアするようになっていくわけです。コースを走破すると、登山で頂上に上がったような感動がありますね。全身に震えがくるくらいです」
　先を見極めたライン取り、それを実現する繊細な操作。的確な判断力と鋭いバランス感覚、素早いコントロールが必要。トライアルは、見た目は静かでも高度な技術を必要とする激しいスポーツなのだ。そして、文字通り壁を乗り越える大きな感動がある。思わず叫びたくなるような達成感を味わえるモータースポーツである。

　「ランプキンと僕とで、世界の頂点を独占するシーズンが続いています。そういう意味でもHondaのオートバイは最高ですね。時代の先を行っている感じです。選手によって重視する性能はさまざまですが、僕は自分の思いがそのままバイクに伝わるようなHondaのエンジンフィーリングが最高だと思います。これからトライアルも4ストローク化されていきますが、先に4スト化したMotoGPを見てもHondaのアドバンテージは明らか。スタッフも負けず嫌いばかりですし、こんな環境でトライアルをできるのは幸せです。あとは、世界チャンピオンあるのみ。みなさん、最終戦のもてぎはぜひ応援に来てください。応援されればされるほど僕は燃えますから！」
　さあ、9月7日（土）、8日（日）はツインリンクもてぎに大集合だ！