HONDA The Power of Dreams

「一緒に組む玉田選手には負けるつもりはないよ。4月の鈴鹿のテストでも、実は一発目のタイムで僕の方が速かったからね」
　8耐を間近に控えた岡田選手は笑顔でそう語った。全日本、WGP、スーパーバイク世界選手権で大活躍を重ねてきたスターライダーは、心から8耐を楽しみにしている。今回、Hondaワークスとして8耐に参戦するのは、「Team CABIN HONDA」から2台と、販売店チーム「Team桜井ホンダ」から2台。マシンは、2000年、2001年の8耐チャンピオンマシン、Honda VTR1000SPW。

「8耐は正直言って大変なレース。暑さに耐えて集中力を保ち続けなければならないし、シーズンを闘うライダーにとってはけがも心配。しかしそれでも出たい。Hondaのライダーにとって8耐は特別なレースであるし、8耐で勝つ感動は他のレースでは味わえないものなんだ」
　まだ出場選手が決まっていない時期、岡田監督はこう語っている。
「8耐に出場するライダーは、WGPと全日本からHondaの全ワークスライダーが集まり、テストを行い決められる。25周年の今年は特に、Hondaの6連勝を賭けた闘いなのでそこに僕が入れるかはわからない。もちろん、走ることになったら全力を尽くしたい」と。

　つまり8耐は、選ばれしHondaのワークスライダーが、Hondaの名誉を賭けて闘う聖戦なのである。過酷な真夏の耐久レースでありながら、各選手が出場したいというのもうなずける。8耐を目前に控えた7月半ばのイギリスGPで骨折した宇川 徹選手が、「体のことを考えると休みたいが、8耐には出たい。どうなるかわからないが、予定通り鈴鹿には向う」と語ったことも、8耐の重みを物語っている。

「やっぱり8耐では、トップを独占してきたものすごいチームワークにHondaらしさを感じますね。8耐は何をおいてもチームワークですから。これがないと勝てない。結束です。ピットの映像が映ったら、そのあたりに注目して欲しいですね」
「8耐には、HRC全体が集中しますからすごい雰囲気ですよ。もう、2ヵ月前からピットワークの練習をしていますから。全社を挙げてのレースになっていますね。社員ひとりひとりが勝つという意識に満ちています」

　今回Hondaワークスから参戦する選手は、岡田・玉田組、宇川・加藤組、A.バロス・武田組、生見・中富組。そのなかで、岡田選手は加藤大治郎選手と並ぶ8度目の参戦と経験者である。優勝回数でいえば、過去6戦出場した宇川選手が3勝で、2勝の岡田選手をリードする。しかし、岡田選手は、8耐に向けたマシンづくりに関わってきている。パートナーを組む玉田 誠選手の監督として“8耐の前哨戦”といわれる今年の鈴鹿200kmレースで優勝もしている。

　耐久レースの面白さは、小説を読むのと同じと言えないだろうか。起承転結を見逃さず、はじめからストーリーを追い続けるとチェッカーの瞬間の得も言われぬ感動に出会える。走る方が耐久なのだから、見る方もある種の“耐久”の末に震えるような感動がある･･･という寸法だ。
「最大のライバルは、宇川・加藤組。Honda同士の激しいバトルになると思います」と岡田選手は豪語した。さあ、25年目の聖戦は、いかなる結果となるか。8時間、じっくりと見守りたい。

（付記）
　8耐は年々ハイスピード化しており、耐久といえどもスプリントに近い速さが求められる。したがって8耐を闘うマシンは、速さと耐久性をいかに高い次元で融合させるかにかかっている。耐久性を重視するとパワーを抑える方向になるので、ライダーはタイムアップのためにコーナーを攻め続けなければならない。マシンとしては、コーナーを速く曲がれるセッティングをめざす。
　しかし、2人のライダーが乗るのでセットアップが難しいのもミソ。両ライダーのいいところを取るといわれるが、必ず妥協は生まれる。その加減と、コーナーの速さ、耐久性（もちろんタイヤも含めて）の複合問題を解くのが8耐のマシンづくり。それにピットワークが絡む。
「僕は、これまでパートナーが好むセッティングで闘ってきました」と岡田選手。こうした選手間のデリケートな主張のバランスも含めてチームワークが大切と、経験豊富な彼は語っている。そして、8耐のマシンづくりは、言ってみれば“誰もが速く走れるマシン”づくりに通じる。8耐で蓄積した技術は、やがて確実に市販車へとフィードバックされるのだ。