Spirit of Honda Racing

土屋圭市選手は、1977年に富士フレッシュマン（サニー）でレースデビュー。以来、F3、フォーミュラミラージュ（初代チャンピオン）、グループA（GT-R）、JTCC（シビック）に参戦。NSXでル・マンに挑み、2年目の1995年にクラス優勝！その年の十勝24時間、鈴鹿1000kmでも勝ち耐久レースを制覇。翌年、NSXでJGTCフル参戦を果たす。その後、マクラーレンやトヨタからル・マンに参戦。JGTCもスープラで闘った。2000年よりHondaにカムバック。再びNSXでJGTCに参戦し、昨年はシリーズ2位に。さまざまなメーカーやチームでレースを闘った、類まれなる経験を持つ土屋圭市選手が今の心境を語ります。

　自然吸気エンジンでパワー的に不利だから、直線で抜かれることもある。でも、ミッドシップの運動性能の良さ、NSXの空力の良さと重心の低さを活かしコーナーで抜き返す。それがNSXでのGTの闘い方。Hondaはその方針を絶対に曲げない。普通の会社だったら「ターボに積み換えて、もっと楽に勝てばいいじゃないか」と考えると思う。だけど、Hondaはあえて市販NSXと同じエンジンで勝利に挑んでる。それは、JGTCが市販車ベースのレースだから。きわめて単純な理由。市販車と違うエンジンを積んでまで勝とうとしていない。その頑なさがHondaらしいよね。自らハードルを高くしてチャレンジしている。「負けてもやる」「1馬力でも上げて闘う」「1ミリでも重心を落としてコーナリング性能を上げて勝負する」という情熱をびしびし感じる。だからドライバーも燃えるんだ。

　NSXはミッドシップ・リアドライブだから、レーシングカーのベース車両としての素性はいい。トラクションがかかり易く、操縦性も優れている。その反面、レギュレーションで他のマシンより50kgも最低重量を引き上げられているんだ。エンジンだけでなく、重量的にもツラい。その中でも勝ちにいけるんだからすごいと思う。コーナーをどんどん速くして、ミッドシップのよさを伸ばしてるよね。今年はさらに空力が強化されたから、GTカーじゃなくてフォーミュラカーに乗ってる感じだね。タイムも、去年うちのマシンが鈴鹿で2分ぐらいだったけど、今年は1分56秒台。もう、コーナーがとてつもなく速くなっている。「コーナーで勝負してやる」というHondaの執念を感じるマシンに仕上がっている。

　いろいろな所でレースをやってきたけど、やっぱり僕のいる場所はHondaかな。いいときだけモータースポーツをやるんじゃなくてね、なんかこう、柱がモータースポーツだというのを感じるよね。他は、何かあったらなくなっちゃうかな…柱が細くなっちゃうかな…って感じがするけど、Hondaには太い柱がある。その太い柱を中心に、自動車やバイクやいろんなものが世の中に出ていってるように僕の目には映ってるね。

　柱の太さを感じるのは、Hondaのスタッフが負けず嫌いだから。他では、負けても「本当に悔しいのかな？」っていう感じがするけど、Hondaの人たちは負けたらホントに悔しがる。闘っている身としては、負けて悔しがってくれると「よし、次はやってやろう」と思うじゃない？負けたときの悔しさが強いのは、その人がその部署の社長の感覚なんだよね。サラリーマンじゃない。Hondaは、その部署、その部署が株式会社的になってると思う。宣伝部にしても、広報部にしても、モータースポーツ部にしても、その部の部長じゃない。そこの社長なの。何かにチャレンジするとき「これで飛ばされてもいい、やろうぜ」って言ってくれるしね。それがHondaの良さじゃない？魂があるよHondaには。思いっきりのめり込んでる。だから、そんなHondaに「終身雇用」させてもらいたい（笑）。

　最後にレースの話に戻ろう。第2戦の富士は、コーナーを徹底して攻めたけど、最後はキツかった。ストレートが長過ぎるよね。でも、こっちだって、ただじゃ抜かれないから。第1コーナーで並ばれても、続くAコーナーでインを取って抜き返したり、ボディ同士が軽く当たるぐらい競り合った。だから見ている人は面白かったんじゃないかな。やっぱり、ブレーキングで抜く、コーナーで抜くっていうのは、直線でパワーだけで抜くよりも楽しいよね。NSXで全日本GTを闘う楽しさはそこ。今度、ぜひサーキットへGTを見に来てください。スカッ!とさせてみせますから。

（近況）
　開幕戦、NSX勢は、松田／ファーマン組がポール・トウ・ウイン。フィリップ／ライアン組が2位の1-2フィニッシュと好調なスタート。第2戦の富士は、何度もトップを走りながら、惜しくも伊藤／シュワガー組が3位表彰台、土屋／金石組が4位、光貞／金石組が6位。「第3戦の菅生はやるよ」との土屋選手の決意を裏づけるように、菅生では土屋／金石組が昨年のレコードを1秒以上縮めるダントツの速さでポールを獲得。その土屋／金石組、期待の決勝は残念ながらタイヤのトラブルで13位に。しかしNSX勢は、加藤／光貞組が2位、伊藤／シュワガー組が3位に入る健闘を見せました。
（5／26現在）