Spirit of Honda Racing

アメリカンモータースポーツの頂点であるCART。
その代表的なオーバルコースでは、レース全体が見渡せ、最高速度は400km/hにもなります。市街地コースや通常のサーキットでも開催され、異なる特性を持つレースでの強さも必要となります。エンジンはV8ターボ、燃料もガソリンではなくメタノールを使用。
Hondaは1994年からCARTに参戦し、初めてのカテゴリーで数々の苦い経験をするも、翌年からは勝利を重ね、2001年まで 6年連続ドライバーズタイトルと4回のマニュファクチャラーズタイトルを獲得してきました。
しかしHondaは今年限りでCARTからの撤退を表明。第3戦（ツインリンクもてぎ）の開催を前に、CARTプロジェクトリーダーをつとめるHPD副社長朝香充弘のダイレクトな声をお届けします。

　学生の頃にF1を見て、 F1に憧れた。当時F1をやっているのは、日本ではHondaしかない。 F1のエンジンがやりたくてHondaに入った。もう、それだけ。Hondaがどういう会社かまったく知らなかった。
　「でも、Hondaに入ったけど、レースをやらせてもらえずがっかりしたよ」
　朝香は1984年からHRA（米・カリフォルニア州）に駐在。 1987年インディアナポリス500マイルレースが開催された時、 AH社長の雨宮と見に行った。「これはF1では味わえない凄いスピードレースだな」
　HRAは、マーケティングだけでなく将来技術を研究する仕事もあり、朝香は自分で「レース」という項目をそこに入れ、副業的にレースに関する調査を始めた。今から10数年前、朝香のレース人生はここから始まった。

『インディアナポリス500マイルレースを見た時の
インパクトは凄かったようですね？』
　コーナーを駆け抜けていくスピードは、もうなんとも言えないものがあったね。これはエンジンのレースだな、パワーのレースだなと感じたよ。これはHondaでやるべきだと。 AHもアメリカでのモータースポーツ活動の必要性を感じていたと思う。

『アメリカにおいてのCARTとはどんなものでしょうか？』
　F1はヨーロッパのレースで、ヨーロッパは貴族社会。それに対しアメリカは逆の大衆社会で、レースのカルチャーがまったく違う。だからレースの面白さも違うよ。
　CARTはドライバーやチームオーナーも観客に非常に近い。サインもすぐもらえるし、お客さんがまさにマシンに触れそうなところまで近づいて見られる。クルーもお客さんの声を聞き、それにきちんと応えるし、サービスもして盛り上がる。これは、Hondaがクルマをつくっていく上でお客様を大切に思う心、Hondaのフィロソフィーに通じるところだよね。
　ぜひみなさんに、もてぎへ来てCARTを見てもらいたいと思いますね。オーバルの面白さも、実際に見ないとね。F1はさ、行ってしまうと1Lapして帰ってくるまでわかんないでしょ？オーバルはレースがすべて目の前で展開されるんだから。

『CART初参戦の94年は苦戦がありましたね』
　94年とはどういう年かというと、何をやってもだめで、とにかく、こんなんでよくレース来られたなというぐらいひどい目に遭った。あの時は恥ずかしくて頭を上げてサーキットを歩けなかったね。94年みたいな屈辱の経験をすれば、普通ならクビになるか、 CARTなんかやめろと言われるかだけど、そのままやらせてもらえた。徹底してやれるのはいいが、そのかわり、苦しい目ひどい目は自分で味わわなければならないんだよ。その94年があったから、 95年があり、96年につながった。あのつらさがなかったら強くはならなかったかも。ああ、でも思い出したくないな（笑）。

『“夢”「インディアナポリス500マイルレースで
勝ちたい！」と“現実”
「開発」とのギャップはありましたか？』
　94年の失敗なんて、ギャップの最たるものだね。 HondaはF1をやっていたから、F1をもっていけばいいと甘く見ていた。ところが現実はそうではなかった。違う世界で、違うルールのなかで全然うまくいかなかった。そこを自分で失敗するまでわからなかった。これがHondaでいう三現主義（現場・現実・現物）だよね。自分で感じて初めて動くことができるんだ。
　でも負けるとホントに頭にくるね。負けるには負ける理由があるから、だからほんとくやしい。

『CARTをやって良かったことはなんでしょうか？』
　CARTを知っている人はHondaの存在を知っている。特に94年を知っている人は、Hondaのチャレンジングスピリットや成長の大きさというのを分かってもらえたと思う。CARTのプロジェクトを運営するHPDをつくったとき、パフォーマンス＋クオリティ＝サクセスという等式をつくってこれが大スローガンだと決めた。クオリティを大切にしたのは、カスタマーサティスファクションという、量産車でやっているフィロソフィーをそのままレースにも活かすため。だから、常にクオリティを第一に大事にしている。クオリティとは何かというと、お客様の心であり、満足である。CARTの場合、HPDにとってのお客様とは、ドライバーでありチームオーナーのこと。彼らのために何が必要かを考えてレースをサポートしている。何ごとも人を中心に発想するというのは、Hondaの大切なフィロソフィーでありアイデンティティ。量産車つくってもレースやっても同じということですよ。常にお客様のことを考えている。100％満足させたい。

（近況）
2002年。Hondaは、第1戦のモンテレーで、フロントロウを独占しながら、決勝では2位。続くロングビーチで今期初優勝、まずまずのスタートです。さあいよいよ第3戦、日本最後のツインリンクもてぎで 4月27日（土）に開催されます。 Honda悲願のもてぎ勝利に向け、エンジンもスタッフも相当気合い入ってます。『今度のもてぎは、もてぎスペシャルが出ますか？』の問いにも「その予定です」の答えを確かに聞きましたヨ！ゴールデンウィーク初日の土曜日、もてぎの晴天とHonda勝利を祈りつつ・・・ツインリンクもてぎのチケットの販売は過去最高を記録しました。皆さんもぜひ応援よろしくお願いいたします！

【参考資料】 Honda CART戦績（1994～2001)