Spirit of Honda Racing

高度に先鋭化されたWGPの500cc・2ストロークマシンは製造するメーカーが限定されます。
そこで、環境性の高い4ストロークマシンがコンペティティブになり得るレギュレーションを導入し、より多くのメーカーに門戸を開くことでさらなる発展に着手した新生WGP。2002年は、 500cc・2ストロークマシンに加え、新たに990cc・4ストロークマシンが混走するレースとなります。熟成された2ストロークマシンに対し、新開発の4ストロークマシンがいかなる闘いをみせるかが見どころ。
Hondaは、2ストロークのNSR500に加え、独自の4ストロークV型5気筒エンジンを搭載したRC211Vを投入。新生WGPへ独自のアプローチで挑んだ、RC211V開発チーム総責任者の声をお伝えします。

　誰がさわっても壊れない、どんな人が組んでも狙った性能が出る、どんな人が走っても鈴鹿で2分4秒出るマシンなんて絶対に作れっこない。鈴鹿で2分4秒出すには、まず優秀なライダーがいて、ちゃんとマシンを組めるメカニックがいて、しっかりセッティングできる人がいて、それをフォローできる人もいて、部品も壊れなくて、そしてそれを運営できるチームがあってはじめてできること。だから、マシンの信頼性はどうですか？ってきかれても、それにきっぱりと答えることは難しいです。鈴鹿で2分4秒出せるマシンは、人の力で性能を維持しているマシンということだと思う。だから人の情熱が大切なんです。それはどんなレースでも同じでしょうね。その部分はお金じゃ買えないですよね。Hondaってやっぱりそういうところに対するこだわりとかテンションが高いから、レースで闘えるんだと思います。

　Hondaでレースしているのは幸せです。日本ではレースを見る人が少ない。2輪のレースなんて、卓球や剣道よりテレビの視聴率が低いというアンケート調査結果もあるみたいです。テレビで卓球の試合見たことあります？それよりも低いんです。普通なら投資効率が悪くてやめますよね。なのにHondaは多大な資金を投じてすごく燃えて一生懸命やっている。そこがいいんですよ。

　頭が硬かったり、意地っ張りだったり、言うことを聞かない人は多いんですけど、基本は面白い会社ですね。頭の硬さや、意地がいい方向に向っていると思います。それをまとめる側は大変ですけどね（笑）。でも何かやるとき、 Hondaってそういう人たちのパワーがものすごいんですよ。何か不具合があると、ワサワサワサっと人が集まってきていつの間にか直っちゃうとか、解決しちゃうとか。一旦動き出すとすごく力があるし、早いです。できる人材がいくらでもいるし、好きにやらせてくれる上司がいます。あえて口を出さずにね。普通だったら手取り足取り教えたり、「どいてろ」といってやらせてくれないじゃないですか。そこをあえて野放しにしてくれるんです。何回失敗してもお金を調整してくれたり、人手が足りなくなったらどっかから連れてきて手伝わしてくれたりとか、ありがたいですよね。恵まれた環境だなって思います。世界一のバイクメーカーで世界一のバイクを作っていられるのですから幸せですよ。

　レースをやる目的として、人材育成とか技術開発がどうとか、販促活動しましょうとかブランドイメージ上げましょうとか、いろいろついて回ります。でも私個人は単純明快で、走って勝って、Hondaの工場で整備している人とかが「Hondaやったな！うれしい」と感じてくれればいいと。その人が友だちと飲んでるとき、「Hondaのバイクって速いじゃん」って言われてうれしかったりするといいですね。そういう仕事ができればいい。16戦全部勝つことは難しいですが、少なくともHondaに携わっている方々が見て誇れるようなレースはしたいですね。「だらしねえな」って思われないように。それが私の責任かと思います。

　こだわりといえば、「勝つことしかない」でしょう。他に見せようがないですもんね。お金を節約しましたとか、いい性能になりましたとか言ったところで、勝たなければ意味がない。チャレンジすることはとても大切ですが、勝てない新技術なんて誰も望んではいないでしょう。勝って、身内の方には「ああ、自分たちが稼いだお金をちゃんと使ってくれているんだ」と思ってもらいたいし、それが販売店でバイクを売っている方とか整備している方のやる気にもつながっていくと思う。ひとつでも多く勝つことにこだわりたいです。

（近況）
2002年4月7日、鈴鹿サーキットで開催されたWGP開幕戦日本GPは、バレンティーノ・ロッシのRC211VがMotoGP（旧500cc）クラスを制しました。
ロッシはフリー走行、予選とも転んでしまっていて「ライダーは元気だけど、マシンはボロボロ」状態（土曜日）。決勝も雨のレースとなり、ロッシは終盤までトップの梁（スズキ）の背後をぴったりマークするも、「お願いだから転ばないで！」「でも早く抜いて！」みたいな、もうどきどきハラハラの凄いレースだったでしょう？とうとうラスト6周で梁を抜き一気にペースアップ、最終ラップにファステストラップを刻むなど力のあるところをもきっちり見せ、そして優勝！
レース後、ピットでスタッフに「おめでとう」と握手を求められた開発責任者の手に力はなく、「どうしたの？」「もうプレッシャーでエネルギーが切れてヘトヘト。勝ってほっとしたけど、今日は飲みいくって感じでもない、ホント」。まずは第一戦「勝って良かった」以外の何ものでもなかった様子。