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GO BEYOND ~勝利に向けた3チームの限りなき挑戦を追う~
#634 MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

「Hondaと言えば“8耐”、8耐と言えば“Honda”」

2015年ケーシー・ストーナー、16年ニッキー・ヘイデンと2年連続でMotoGPチャンピオンライダーを招き、ただ鈴鹿8耐で勝つことを目指した名門チームの挑戦は、耐久レースの難しさを物語るように儚く散り去った。

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda、2年連続でリタイア。誰もが予想すらしていなかった出来事にチーム全員が悔しさをかみしめた昨年、本田重樹監督は「来年こそは優勝、ヤマハに3連覇はさせない」とリベンジを誓う。そして、その戦いがいよいよ本格的に始まった。

本田重樹監督

今年はスケジュールが変更となり、公式テストは、7月5日にメーカー合同テスト、7月6日にタイヤメーカーテスト、7月11日から13日までが公開合同テストという日程に。MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaは、その初日となるメーカー合同テストから、3人のライダー全員が顔をそろえた。

過去、鈴鹿8耐を8回走って3度の優勝を果たしている高橋巧をチームリーダーに、今年もMoto2クラスを戦う中上貴晶、MotoGPライダーのジャック・ミラーという豪華な布陣となった。中上は、チーム初優勝となった10年に高橋のチームメートとして登録されているが、この年の決勝は未出走。ミラーは初めての参戦となる。

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

チームをけん引する立場の高橋は、今年のチーム体制について、

高橋: 「2人は初めての参戦となりますが、世界のトップクラスを走っているライダーなので、全然心配していません。自分は8耐に多く出場させてもらっているので、その経験をもとに、チームを引っ張っていきます」

世界で活躍するライダーにも物怖じすることなく「勝つことしか考えていない」と、淡々と語ってくれた。

高橋巧


今年の初めに鈴鹿8耐への参戦が決まったという中上は期待感に満ちた表情をみせながら、意気込みを語った。

中上貴晶

中上: 「すごく大きなチャンスをいただけました。鈴鹿8耐という、ライダーにとって重要な舞台に名門チームから参加できることを誇りに思います。自分のポテンシャルを最大限に発揮し優勝を目指してチームと進んでいきます」

普段乗っているMoto2マシンとは違い、鈴鹿8耐マシンは1000cc。パワーも車重も違うマシンに乗ることは、MotoGPを目指している中上にとって、フィジカル面、また自分の走りの引き出しを増やす挑戦の場でもあるという。


初参戦となるミラーは入念にレースシミュレーションを実施し、コースやマシンの感触を確かめていた。

ジャック・ミラー

ミラー: 「テストは非常にポジティブです。マシンの調子もよく、タクミ(高橋)、タカ(中上)も乗るたびに早くなっていき、チームの雰囲気は最高です。鈴鹿は、チャレンジングなサーキットで1ラップをまとめるのが難しいですが、そのような部分も好きになりました」

MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaのテストは順調なスタートとなった。それは、タイムにも表れていて、7月5日は3回のセッションを行い、高橋が2分8秒782でトップタイムを記録。翌日、高橋はさらに2分8秒023までタイムを更新した。

高橋巧

今年の変化点としては、Hondaの新型「CBR1000RR SP2」を採用したことも挙げられる。ニューマシンについて、3ライダーともエンジンがパワフルになったと感じているが、新マシンのポテンシャルは未知数で、特に16.5インチから17インチに引き上げられたタイヤとのマッチングは新しい挑戦となった。

7月11日、今年2度目となる公式テストが始まった。この日もMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaは順調にテストを進めた。高橋は2分7秒783を計測して初日のトップタイムを記録。中上は2分8秒台前半のタイム、ミラーは2分8秒台で安定して周回、初めてのナイトセッションも経験した。ただ、このとき3ライダーともフロントのフィーリングに違和感があると、チームスタッフに伝えていた。

高橋巧

翌日の鈴鹿は午前中から蒸し暑く、鈴鹿8耐本番を感じさせる天候となった。前日7秒台に入れていた高橋は、一転8秒台での周回を続けていた。

高橋: 「昨日は7秒台に入れることができましたが、今日は8秒台しか出せなくなりました。一番はタイヤの問題です。今年から17インチのタイヤで走っていますが、まだまだデータが足りず、今日のような路面温度が高いコンディションではタイムが伸び悩むことがあります」

今年は全日本でも17インチを使用しているが、まだまだ新しいタイヤでの挑戦には不安を感じているとのこと。昨年と同様に16.5インチで無難に走る選択肢もあったが、あくまでも高橋は17インチでいくことにこだわった。このタイヤのポテンシャルを発揮できれば、必ずうまくいく。そして、その結果が今後のシーズンにもつながると信じていた。

高橋巧

この新しいタイヤについては、世界で戦うチームメート2人も同様なものを感じていた。

ミラー: 「タイヤのテストをメインに調整を進めています。フロントをソフト、リアをハードにして走行したのですが、あまりよくなかったです。しかし、前後をソフトタイヤにして、うまくいけば0.5秒以上タイムを更新できるポテンシャルは感じています」

中上: 「3人ともだいたい同じタイムで周回できていることは、チームとして、かなり強みになっていると思います。ただフロントのフィーリングに問題を抱えているのも事実です。もう少しアベレージ(1周あたりの平均タイム)を底上げするためには、ここの改善が必要となります」

ジャック・ミラー

2日目の午後に鈴鹿は雷雨に見舞われ、テストに割ける時間が大幅に削られてしまった。予定していた中上のロングラン、そしてタイヤのテストも翌日に回された。

公開合同テスト最終日、前日に降った雨があがると鈴鹿は再び蒸し暑さを取り戻した。タイヤの問題に取り組んでいるMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaにとって、終日ドライコンディションになったことは、理想的だった。

3日間のテストを終えて、MotoGPライダーのミラーは、鈴鹿8耐マシンの特性、鈴鹿の走り方をつかみ、自信のうかがえる表情を見せた。

ミラー: 「非常に手ごたえを感じるテストでした。気温が高いときにフロントタイヤのフィーリングに戸惑うことはありますが、全体的には満足しています。MotoGPマシンとは全く違う走り方が必要で、特に1コーナーの進入はMoto3のものに近いですね。早めにブレーキングをして、ブレーキレバーをリリース。その勢いのまま2コーナーに入るという感じ。そのほか、ダンロップコーナーやS字コーナーなども問題はないです。マシンも安定しているので、勝利に向け自信を持って進めていけます」


前日、雨によってロングランが実施できなかった中上もしっかり20周を走りこんだ。

中上貴晶

中上: 「8周走行したユーズドタイヤで20周を走り、計測で本番の1スティント分をテストすることができました。フィジカル面でも問題はなかったのですが、本番ではこれをあと2、3回は走る必要があるので体力的にもしっかり準備が必要だと感じました。タイヤについては、もう少し理解が必要ですが、計測の最後の方でも8秒台を出せたので悪くはないと思っています。今のままでも十分にトップ争いができるとは思いますが、勝つためにはもっと余裕が必要。今はみんながいっぱいいっぱいで走っていますので」

恐らく今年も決勝は2分8秒台での戦いになる。テストでやっと8秒台で走っているようでは勝てないと中上は感じている。それは3人の共通認識のようだ。


今年のライダーの中で唯一、15年と16年の悔しさを経験している高橋は、鈴鹿8耐で勝つための仕上がりはまだ50%だと言う。

高橋巧

高橋: 「3日間のテストでやりたいことはでき、再び2分7秒台に入れることができました。しかし、まだまだ満足はしていません。マシンをよくするための改善案は出せていて、それが解決できれば、もっとハイレベルな走りができると思っています。余裕をもって7秒台で走行できれば、勝てるはずです。簡単なことではないのですが、今あるパッケージがうまくいけばできると感じています」

リベンジに燃える高橋は、鈴鹿8耐で勝つことの難しさを知っている。今回のテストでは、ドライで走行した各セッションでトップ3に入るタイムを計測できているが、それだけでは鈴鹿8耐は勝てない。さらに高いレベルの走りが必要となる。

そう言った高橋は、チームメートにも感謝していると語った。

高橋: 「ジャックもタカ(中上)も、自分に合わせたセッティングに文句を言わずに走ってくれています。ありがたいです。もともと、身長や走り方が近いので、これは8耐においてかなりの強みになるはずです。また、マシンについて感じている部分も同じなので、一緒に改善していけば、今年はかなりいいところにいけると思います」

本田重樹監督

公式テストの全日程が終わったあとに、本田監督に今年のチームについて、そして本番への意気込みを聞いてみた。

本田監督: 「鈴鹿8耐は、ライダーがまとまらないと勝てない。その点では今年のチームの雰囲気はいいですよ。過去3度の優勝、表彰台の登壇率の高さ、もうベテランと言っていい高橋巧がチームを引っ張り、初参戦の中上貴晶、ジャック・ミラーに8耐の戦い方はこうだと、リードしている。

このチームの雰囲気、そして全日本選手権から作り上げてきたマシンと、いい準備ができています。各ライダーとセッティング、タイヤとのマッチングについて最終確認をして、本番に備えます。2年連続で逃してしまった王座奪還、8耐と言えば“Honda”、Hondaと言えば“8耐”。再びそう言ってもらえるように、チーム一丸となって勝ちにいきます。その手応えはつかめています」

名門のチーム力と新型マシンのポテンシャル、そのすべてを発揮することができれば、昨年逃してしまった王座奪還が果たせるはずだ。

8耐と言えば“Honda”、Hondaと言えば“8耐”

この言葉を取り戻すため、MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaの挑戦が始まる。

伊藤真一による3ライダー徹底比較
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