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F.C.C. TSR Honda

「世界耐久王者への道のりは始まったばかり」

鈴鹿での暑い夏を終えて、F.C.C. TSR Hondaはドイツの地に立っていた。鈴鹿8耐も組み込まれているFIM EWC(世界耐久選手権)の最終戦に臨むためだ。F.C.C. TSR Hondaのここまでの成績はフランスのル・マン24時間耐久レースで3位表彰台、ポルトガル・ポルティマオ12時間耐久レースで9位。そして、鈴鹿8耐では、ほぼ最後尾からの怒涛の追い上げで18位とポイントを重ね、総合ランキングは5位。今回の最終戦オッシャースレーベン8時間耐久レースまでチャンピオン獲得の可能性を残してきた。

藤井正和監督は、今大会に備えて、鈴鹿8耐をともに戦った渡辺一馬、パトリック・ジェイコブセンに加え、昨年もこのサーキットで8時間耐久を経験しているダミアン・カドリンを迎え入れた布陣をとった。

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8月25日(木)、決勝グリッドを決める公式予選1日目がスタートした。EWCの予選ルールでは、各ライダーが20分間のセッションを走り、3選手の平均タイムによって順位が決まる。F.C.C. TSR Hondaからは、青い腕章をつけたジェイコブセンが第1走者としてコースに入った。開始早々に自己ベストを記録し、1分27秒718で9番手となる。続いてカドリンがコースイン。この時間になると気温はどんどん上昇していき、路面温度は50℃を超えた。そんな中でも1分28秒568を記録。そして、1日目の最終走者となった渡辺は、ジェイコブセンとカドリンが履いたユーズドタイヤでアタックし、1分28秒511をマーク。この日の暫定順位は5番手となった。

カドリン: 「予選でポールポジションを取ることは確かにいいことですが、僕らの目的はレースで強い存在になることです。だから決勝に合わせたセッティングを最も重要視していますし、予選でのタイヤ選択も大切なポイントと考えている。予選をユーズドタイヤで戦えば、レースに新品を残すことができますからね」

予選後のカドリンがコメントしているように、今年から予選・決勝を通して使えるタイヤ本数の制限が厳しくなっている。F.C.C. TSR Hondaは予選にあまり重きを置かずに、決勝レースですべてを出しきる作戦をとった。

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翌26日(金)も雲一つない好天で、照りつける日差しが厳しい一日となった。この日で予選は終了し、決勝のスターティンググリッドが確定する。第1走者は前日と同様にジェイコブセンが務めた。セッションの序盤から快走をみせて、自己ベストを1秒以上更新する1分26秒676をマーク。全体でも3番手となるタイムを記録した。第2走者のカドリンも前日から大幅にタイムアップして、1分27秒672。これまでユーズドタイヤでの走行を重ねていた渡辺は待望のフレッシュタイヤを装着してコースインすると、全開アタックを開始。「タイムを上げたくて少し気負い過ぎました」と、ミスによって満足いく走行はできなかったものの、1分27秒573と自身のウイークベストを更新した。

これで予選セッションをすべて終えて、3選手のアベレージタイムは1分27秒307。総合での予選順位は、前日から1つ上げて4番手となった。

藤井: 「我々は今週初めてここオッシャースレーベンに来て、徐々にセッティングを詰めてきましたが、昨日の公式予選初日が5番手。今日は1つ順位が上がって4番手で終えることができました。この結果は、ほかのチームも含めてさまざまな考え方やアプローチがあるので、さほど重要とは思っていません。なんと言っても明日の決勝、8時間走り終えた後にどのような結果を残せるか、という一点のみでセットアップを進めていますから、その意味では今日の結果は予定通り。いい結果だと思ってます」

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決勝は歴史的な高温が予想され、天候、燃費やライダーの特徴に合わせたピット回数、セーフティカーが導入された場合、転倒した際など、あらゆる場面を予想して戦略を練る必要がある。どんな状況になったとしても対応できるチームの総合力なくしては勝利を手にすることはできない。鈴鹿8耐前に藤井監督はこう言っていた。

「決勝までにやることはいっぱいあるけど、瞬間、瞬間にマシンをまとめる能力が大切。そういう実力のあるチームにしてきた」

自信と経験は積んできた。あとは決勝レースでそれを発揮するだけだ。

8月27日(土)、決勝の日がやってきた。朝のフリー走行では3選手が交互に走行し、ジェイコブセンが全体トップとなるタイムを記録。レースウイークを通して決勝を見据えたセッティングを行ってきたことが功を奏し、世界耐久での勝利に向けて万全の態勢が整った。

スターティングライダーを務めるのは、朝にトップタイムを記録したジェイコブセン。これは7回のピットストップ、予選からマネジメントしてきたタイヤの本数、さらには夜間走行を考慮したものだった。気温が徐々に上がってきた午後2時、8時間後のチェッカーを目指した、熱く長い戦いの火蓋が切って落とされた。

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ジェイコブセンはスタートで出遅れ、16番手まで後退。序盤から追い上げの展開を強いられた。しかし、10周目には7番手、16周目には5番手と徐々に順位を回復していく。29周目に、転倒車が出たことによりセーフティカー(SC)が導入され、トップグループとの差はさらに詰まった。このサーキットは全長が短く、抜きどころが少ないのも、F.C.C. TSR Hondaには追い風となった。

41周目、ライダーはカドリンに交代。チームはピット作業を順調にこなし、6番手でコースに送り出した。しかし、5番手に順位を戻してトップ争いが見えてきた最中、アクシデントがチームを襲った。60周目からストレートでカドリンがマシンの左側を指して必死にピットへジェスチャーを送る。ラップタイムは1分29秒台、エンジンから白煙は上がっていないが、あきらかにトラブルを抱えた様子。70周目、ついにダミアンが緊急ピットイン。水温ランプに、異常を示すアラートが上がっていた。

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チームはすぐにマシンの修復に。ラジエーター、ホース、ウォーターポンプ類などを交換し、コースに復帰したのはピットインから30分後。順位はトップからは20周差の31番手(全35チーム中)で、奇しくも鈴鹿8耐と同様に、ほぼ最後尾からの追い上げという展開となった。これまでの耐久シリーズ、F.C.C. TSR Hondaは絶対に諦めない強い気持ちを持ってレースに望んできた。交代で入ったジェイコブセンも同様だ。しかし、直後に入った2度目のSCのタイミングでジェイコブセンがピットに戻ってきて、マシンを降りた。そして、レース開始から2時間29分後、藤井監督はリタイアを告げた。

渡辺: 「今日のレースはマシントラブルによるリタイアということで、非常に残念です。チーム全員が同じ気持ちですが、これもレースだと思います。自分の中で受け止めて気持ちを切り替えます。最終戦でチャンピオンがかかっているレースの中で、僕自身は走ることなく終わってしまったので、悔しい気持ちが強いというのが正直なところですが、すぐに次のシーズンも始まりますし、がんばるしかないと考えています。今年一年、初めて世界耐久を回らせてもらって、僕自身いろいろと経験でき、成長した部分も多くあると思うので、この経験を活かして、ライダーとしてもっと成長していきたいと思います」

藤井: 「今日の結果は悔しい、というよりも情けないというか、鈴鹿(8耐)以上に手からこぼれてしまったかなというそんな気がするくらい、うまくいかなかった。なぜそうなるかというと、もちろん今回は最終決戦なので、できるだけのモノの組み合わせを考えて、仕込んできて準備もしてきた。しかし、それが思ったように機能しなかった。ということは、おごりや考え過ぎやいろいろなものがあったんだなと、今後は反省してこの経験を活かしていこうと思っています。今シーズンEWCを戦って、最初のル・マンで非常にいい結果を得ることができて、それがきっかけでシリーズを戦ってきました。それに対しては後悔もなく我々にとっていい経験になったと思っています。次はボルドール24時間に出場しようと考えています。その経験がさらに活かせると確信しているからです。ここまでの4戦がなかったら、このような話にはならなかったし、そんな発想にはならなかったと思います。このように考えられるだけで、ここまで戦った甲斐があったと信じています」

これでF.C.C. TSR Hondaの2016年世界耐久シリーズは幕を閉じる。海外で戦うことで、これまでの価値観が変わり、チームとして多くの経験を積んで一層成長を遂げた。今年は本来望んでいた結果を手にすることはできなかったが、F.C.C. TSR Hondaがこのシリーズに挑むのは初めてであることを忘れてはいけない。来月には2016-2017年シーズンがフランス・ポールリカールで開幕(決勝レース9月17〜18日)する。そう、まだ彼らの挑戦は始まったばかりなのだ。

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