モータースポーツ > もてぎ1.5チャレンジカップ > 第5回 昔とったキネヅカ
土曜日の練習走行。
小嶋が初走行を終えてフィットから降りてきたときの落胆ぶりといったらなかった。ヘルメットを被っているのに、彼の「がっくり感」と「自分に対する怒り」は、その場にいる全員に伝わってきた。
15年ぶりなんだから……楽しんで少しずつつめていきましょう……。
ボクたちが慰めれば慰めるほど彼の肩は落ち、顔は険しくなる。
「なめていたとしか言えないですね……悪くてもトップの3〜4秒落ちくらいだと思っていたんですけど……まさか20秒落ちなんて……本当に申し訳ありません」。
いやいや、あやまらないでくださいよ〜。今回の主役は小嶋さんなんですよ。逆に意気揚々と乗り込んできてスゴいタイム出されちゃったら雑誌の企画的には面白くないんだから……。
自分の不甲斐なさに我慢できなかったのだろう。彼は悔しい気持ちを隠さず表に出しはじめた。
彼が思い出すのはザウルスのレースで初めてTIサーキットへ行った時のこと。
まわりは何日も走りこんだ人たちばかり、そんな中、金曜日にさっそうとサーキット入りしてトップタイムをたたき出した。
今回のもてぎもイメージはそのときのまま。しかし現実は違った。
「どうやったらそんなにオソく走れるのだろう?」
昔、彼がそんなふうに思っていた初心者と同じレベルまで自分の実力が落ちていることに気がついた。
それでも2本目の走行では10秒近く詰めてきた。充分な結果だ。だってはじめてのサーキットで、はじめてのマシン、しかもサーキットを走るのは15年ぶりなのだから。
しかし彼の気持ちはまったく晴れていなかった。
予選、決勝は翌日曜日のワンデイ。
中学生の息子さんがもてぎへ応援に来てくれるはずだった。
しかし……練習走行の状況を聞いた息子さんから「勝てる可能性のないレースを応援に行くつもりはない。親父は本番に向けてちゃんと練習したのか? 準備したのか?」と言われたという。
息子さんは本気で野球をやっており、父親以上に勝負事には厳しいのだ。いやぁ、息子さんに会いたかったなぁ。
残念ながら一晩でミラクルが起こるはずはなく、決勝は3番手からスタートしたものの9位完走という結果。
決勝中のラップも小嶋本人が目標にしていた2分35秒台に1秒足りなかった。
それでもレース後の小嶋の顔は、初走行のときとは違ってすっきりしていた。
「これがはじめてのレースだったらきっと楽しかったと思うけれど……正直に言うと土曜、日曜の2日間、まったく楽しめませんでした。ただ、チェッカーを受けた後、オフィシャルの人たちが手を振ってくれているのを見たら、感謝の気持ちしかなかった。昔はそんなことまったく意識もしていなかったのに……」
レースから2週間が経ち、彼からメールが届いた。
「本当につらい2日間でしたが、悔しい思いも含めてレースは楽しいのだと再認識しました。自分自身も、息子に対してもこのままでは終われません。いつになるかは分かりませんが、1.5チャレンジカップに参戦するべく準備をはじめました」。
小嶋さん、楽しみにしていますよ。絶対もてぎへ戻って来てくださいね! 息子さんと一緒にね。
今年同様、全5戦中JOY耐を含む3戦が耐久レースとなる予定。新型フィットの参戦についてはイコール化を含めて現在調整中とのこと。現行モデルを使った本気で取り組めるN1レースは本当に貴重な存在。来年はぜひ鈴鹿をはじめとした他のサーキットでも開催してほしい!