MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

Vol.01「新生ハルクプロの第一歩。新しい体制と積み上げた歴史」

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

Hondaユーザーチームの中でもトップチームの一つであるハルクプロ。昨年までは、Hondaのエースチームとして優勝を宿命づけられる立場にいたが、いちプライベートチームとしてゼロからの再出発。新しい体制でも、ハルクプロには今まで蓄積してきた「財産」がある。

立場もマシンも新しいハルクプロの8耐

MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaといえば、現Red Bull Honda with 日本郵便のエース、高橋巧が昨年まで所属していたチーム。Hondaワークスチームが全日本ロードレースや鈴鹿8耐に参戦していなかった時期、Hondaのトップチームとして優勝を宿命づけられ、事実2010年、13年、14年と優勝を遂げてきたチームである。

「大きく立場が変わったね。昨年まではHondaのトップチームとして、高橋巧というHondaのエースがいて、優勝を義務付けられていたというか、Honda全体の責任を負っていたような気がする。今年は、ハルクプロとしての、言うなれば自分たちのレースができるんだ」と、MuSASHi RT HARC-PRO. Hondaの会長であり、チーム監督である本田重樹氏は語った。

本田重樹

今大会のライダーラインアップは、全日本ロードレースにも参戦している水野涼と、現役Moto2ライダーであるドミニク・エガーター、さらにFIMスーパーバイク世界選手権(WSB)にレギュラー参戦しているパトリック・ジェイコブセンの3人。ジェイコブセンは2回目、ドミニクは5回目、そして水野は2回目の鈴鹿8耐参戦で、この3人がトリオを組むのは初めてだ。フレッシュさと、経験をミックスしたチーム編成と言えるだろう。

そのMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaの陣頭指揮を取るのが本田光太郎氏。今年のラインアップに大きな可能性を感じている。

本田光太郎:「もちろん、チームの軸は(水野)涼なんですが、そこにドミニク(・エガーター)とPJ(パトリック・ジェイコブセン)がうまくマッチして、それを始点にまた3人が伸びてきた感触がありました」

鈴鹿8耐へ向けてのMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaの本格始動は7月5~6日のメーカー合同テスト。ここにはWSB日程の関係で、ジェイコブセンが参加できなかったものの、水野とエガーター、さらにHonda全体のスーパーサブとして控えるランディ・ドゥ・プニエが合流。2日間とも雨に見舞われてしまったが、まずはウエットでのテストをみっちりとこなした。

※7月18日の発表で、ジェイコブセン選手は「Red Bull Honda with 日本郵便」、ドゥ・プニエ選手がレギュラーライダーとして「MuSASHi RT HARC-PRO. Honda」からの参戦となりました

(左から)ランディ・ドゥ・プニエ、ドミニク・エガーター、水野涼

本田光太郎:「マシンは、この鈴鹿8耐から新しい車体構成となりました。通常、全日本選手権で使用しているマシンよりも耐久向けに最適化したもので、前後サスもフレームも全く仕様違い。雨となった7月5~6日のテストが、ニューマシンのシェイクダウンになりました」

ドライ路面で走り込みたいシェイクダウンだったが、ウエットコンディション。しかしMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaの3人は、全チームの中で最も多く走ったのではないか、と見えるほど周回を重ねていた。水野、エガーターが走り、ドゥ・プニエがまとめる。その繰り返しで周回数を増やしていたようだった。

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

本田光太郎:「ほぼニューマシンという仕様だけに、まずはマシンのベースセッティングを見つける作業をするんですが、ランディ(・ドゥ・プニエ)ががんばってくれました。うちは(高橋)巧が抜けた分、涼がJSBルーキーということもあって、マシンに精通したベテランという存在がいません。そこをランディが補ってくれました。特に新しい車体、しかも耐久仕様のエンジンを積むことで、いい悪いを判断すること、そこからどの方向へ向けて進むかということを決めていくことに関して、いろんなバイクに乗ってきているランディの経験がすごく役に立ちました」

エガーターも、ニューマシンに好感触を得たようだ。

ドミニク・エガーター:「2日間、ずっと雨に降られてしまいましたが、8耐本番でも雨が降ることは多いから、そのつもりで周回しました。なるべくコンスタントに、ハイペースで、リスクを負わないように走った感じでしたね。昨年のマシン(2017年はF.C.C. TSR Hondaから出場)に比べて、ウエット路面ですごく乗りやすかった。ウエットで乗りやすいマシンは、ドライコンディションで速いマシンが多いからね!」

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

継続という財産が驚速ピットワークを生み出す

雨の2日間のテストは、シェイクダウンとはいえ、初日、2日目とも総合9番手とまずまず。翌週、7/10~12の3日間のテストは、待望のドライコンディションの走行となった。

このテストには、今度はMoto2のレース日程の関係でエガーターが参加できず、かわってジェイコブセンが合流。この3日間のテストでは、今度は水野とジェイコブセンが2台のマシンを使って、引き続きマシンのベースセッティングを探りながら、2人のセッティングの合わせ込みも図っていた。

水野涼

前回のテストとは打って変わって、3日間とも8耐本番を思わせるコンディション。ここでMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaは、走り出しから上々のタイムで周回することになる。

1回目のセッションで2分09秒台にタイムを入れると、2回目には09秒台前半、翌日には08秒台をマークし、チームベストはジェイコブセンの2分08秒070。8耐の本番を想定し、1スティントに相当する「約25周」をピットインせずに走り続けるロングランでの08秒070は、まずまずのタイムだが、ここからのひと乗せも必要なタイムといえる。

本田光太郎:「ニューマシンのシェイクダウン、しかもドライのテストがわずか3日しかなかったテストにしては、よくまとまったと思います。昨日から今日、涼とPJそれぞれセッティングを出して、最後にはマシンを乗り換えて合わせ込みを進められました」

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

水野もジェイコブセンも、走り出し当初はセッティングの方向が違っていたものの、8耐本番を想定してのセッティングでは、8耐がどういうものかを知り尽くしているだけに、マシンのセッティング方向が一致していたのが大きい、という。

本田光太郎:「行きすぎないことですよね。タイムを出すならば、そういう方向のサスセッティングがあるんですが、2人ともそこは狙ってこなかったのがさすがだな、と思いました。これなら、3人のセッティングを合わせて作業も難しくないと思います」

最終日には、本番を想定して1回の走行でなるべく距離を走り、ピットに入るたびに本番さながらのピットワークを見せたMuSASHi RT HARC-PRO. Honda。このピットワークの速さも、参戦チームナンバー1との呼び声が高い。

MuSASHi RT HARC-PRO. Honda

本田光太郎:「実はうちの8耐スタッフは、もう10年、いやそれ以上ずっと顔ぶれが変わっていないんです。ライダーは本番を想定した周回をして、セッティングを詰めていくんですが、その分ピットクルーも本番を想定したピット作業をやるんです。今回も、他チームのピットワークを、誰が言うともなく見学に行ったり、タイムを計ったり、ピットクルーはもう、本番モードでした。ピットワーク練習も重ねますが、本番ではタイヤが一瞬外れにくかったり、チェーンがかかりにくかったりと、想定していないことが起きるもの。そこを対処できるのは、練習はもちろん、本番の経験がモノを言うと思います」

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8耐でいちばん重要なのは「チームワークだ」と言う。1人のライダーが速いだけではだめだし、ライダー3人が速いだけでもだめ。速いライダーと、的確でミスのないピットワーク、そして目標とするレース戦略が正しくて、初めて上位に進出できるものだ。

本田光太郎:「うちはレーシングチームであり、全体の『和』があるファミリーのようなチームです。2010年に初優勝したときは、清成龍一/高橋巧組で、これは清成くんに負担をかけることが多いレースでした。それでも、2013・14年に連覇した高橋巧/レオン・ハスラム/マイケル・ファン・デル・マーク組のときは、巧がリーダーシップを取りながら、レオンとマイケルが引くところは引き、すごくチームの調和が取れていました。僕たちが目指すチームはここです。今年は、あのときにムードが似ている気がするんです」

雨の2日間、晴れの3日間を終えて、最終日には総合8番手タイムをマークしたMuSASHi RT HARC-PRO. Honda。ずばり本番は?

本田光太郎:「今の自分たちの持ちタイムをもう少し上げてから、本番のレース戦略を立てることになると思います。現状で220周、と言っても現実味を持ちませんし、持ちタイム以上の目標を立てると思わぬアクシデントを引き起こしてゼロになってしまうのが8耐。トップとはまだまだ差がありますから、そこをもう一つ上乗せして、本番に臨みたい。Hondaのプライベートユーザーとして表彰台に上りたいですね」

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