全日本選手権第6戦中部大会の舞台はキョウセイドライバーランド。車椅子でも観戦ができ、子ども連れなど、幅広い層の来場者に満足してもらおうとする大会運営は、全日本選手権の中でも希有な存在で、最も観客を集める大会の一つです。
三重県出身の小川友幸(Honda)にとって、中部大会は地元大会と言えます。今シーズン、ここまで4勝1敗と順調に勝ち進んでいる小川ですが、ここもぜひ勝利というかたちで地元のファンに雄姿を見せ、自身4連覇を決める最終戦に向けて弾みをつけておきたいところです。
天候は雨。天気予報によれば、国際A級スーパークラスがスタートするころには止むはずだった雨が、なかなか止まずに降り続きます。ライダーにとっては、雨が止んで泥が重たくなるよりは、降り続いて洗われたほうがコンディションがいいということもあり、止むのがいいかは微妙なところです。一方、全参加者を数えれば150名にもなるという今回の大会。各セクションで待ちの渋滞があり、持ち時間はどんどん少なくなっていき、天候を考える余裕はなくなっていきました。
小川友幸
そんな難しいコンディションの中、小川のスタートはよくありませんでした。泥々の第1セクションは全員5点でイーブンスタートだったのですが、第2セクションでは前輪を滑らせ、セクションテープを切って5点。体調やライディングの調子は悪くなかったとのことですが、いつもの小川らしからぬ滑り出しでした。
今回、ライバルの黒山健一(ヤマハ)はフューエルインジェクションを装備した新しいエンジンを積んで戦いに臨んでいました。ニューマシンのデビューで勢いづくライバルでしたが、まだ開発途上であろうマシンでの参戦は迷いも見られ、1ラップ目の減点は小川、黒山、そして野崎史高(スコルパ)が30点で同点でした。しかし、持ち時間の使い方に差が出ました。野崎には5点のタイムオーバーがあり(1分遅れるごとに1点の減点)、黒山は4点、小川は1点のタイムオーバーがありました。結果、1ラップ目のトップは31点の小川ということになりました。
12セクション2ラップと2つのSS(スペシャルセクション)での戦い。勝負は2ラップ目にもつれこみます。天候がやや回復し、コンディションがちょっとずつ変化していきます。ただ、2ラップ目も時間がないのは同様で、てきぱきとセクションをこなしていかざるを得ません。
小川友幸
2ラップ目、細かいミスが出るライバルに対し、クリーンのできるところでしっかりクリーンしていく小川ですが、終盤に大きなミスが出ました。第11セクションは、1ラップ目にも5点となっている難セクションですが、2ラップ目は多くのライダーがクリーンを出していて、小川にとってもクリーンセクションと言っていいものでした。この入口の登りで失敗。手痛い5点を取ってしまいました。
2ラップ目、ここでも黒山に2点、小川と野崎に3点ずつのタイムオーバーがあり、12セクションを走り終えたトップグループ。スコアを集計すると、トップは黒山で52点、小川は55点で2位、3位の野崎は63点となっていました。
SSで逆転があるとすれば、優勝争いの2人。しかし小川は、SSでの逆転は難しいと考えていました。セクションを見ると、ダイナミックではありますが黒山が失敗するような構成とは考えられず、しかも黒山はクリーンをせずとも勝利できる計算です。
果たして、ひたすら登っていくSS第1は、多くのライダーがクリーン。黒山も、もちろん小川もクリーンします。点差は3点差のまま、ビッグタイヤを飛び越え、最後に高さ173cmのコンクリートブロックに上がるという常人離れした設定のSS第2にトライします。
さすがにこの173cmの壁は、多くのライダーをはじき返しました。しかし野本佳章(ベータ)がクリーンをすると、野崎もクリーン。トップライダーにとってクリーンの可能性が高いセクションであることが見えてきました。
スタート順の通り、小川に先立って黒山がトライして1点。これで黒山の勝利が決まりました。最後にトライをする小川は、もはやクリーンでも5点でも結果は変わらないという状況でした。
小川友幸
小川友幸
そんな中、小川が真骨頂を見せました。最初のタイヤ越え、離れて置かれた2つのタイヤ、これらを、フロントを高く上げたまま走破していく華麗な走りを披露します。そして最後の173cmの壁も、足を着かないだけでなく、フロントを上げたまま登りきる余裕を残しての走破となりました。勝負には負けましたが、ゼッケン1が備える王者の貫録を、最後のSSでの走りに込めた小川。40歳になって初めての全日本大会は、ちょっぴりほろ苦いものとなりました。
小川友幸
小川友幸(右から2番目)
タイトル争いでは、ランキング2位の黒山にちょうど10点差。2週間後の最終戦で、小川は6位に入ればチャンピオンを決めることになります。今シーズン、1位と2位しかない小川にとって、タイトルを決めたも同然の戦況。しかし小川は、彼らしい完ぺきな有終の美での、6回目の全日本タイトル、4連覇、そして40歳となっての初めてのタイトル獲得を狙います。
今シーズン4度目の参戦となるベテラン本多元治(Honda)が2位に入りました。優勝は永久保恭平(ベータ)で、同点でタイトル争い中だった村田慎示(Honda)は6位、小野貴司(Honda)は8位と、実力を存分に発揮するには至りませんでした。ランキングトップは、若い久岡孝二(ガスガス)に移っています。しかし、久岡からランキング3位の小野まではわずか5点差。最終戦の結果次第で、まだまだ結末が読めない2016年シーズンです。
今回は5名が参加。ランキングトップの西村亜弥(ベータ)が、全勝優勝に向けて気持ちを引き締めています。そんな中、路面のコンディションが悪いこと、さらに、西村がウォーミングアップで転倒し、手の指を痛めていたことから、ランキング2位の小玉絵里加(Honda)がどこまで迫れるか、西村の連勝を止められるかが、注目の一つでした。
西村の2ラップ目は、2位の小谷芙佐子(スコルパ)に5点差まで詰められ、今シーズン初めてといっていい、勝者が入れ替わる可能性を感じさせる戦いとなりました。しかし結果は西村の貫録勝ち。西村の減点は32点、2位は48点。いつもの圧勝とは結果が少し異なりましたが、シーズン6勝目を手にしました。
小玉は小谷に5点差。わずかの差ではありましたが、3位となりました。ランキングは、小玉が2位の座を守っています。
小玉絵里加
順位 | No. | ライダー | マシン | タイム減点 | 総減点 | クリーン数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 黒山健一 | ヤマハ | 6 | 53 | 10 |
2 | 1 | 小川友幸 | 4 | 55 | 10 | |
3 | 3 | 野崎史高 | スコルパ | 8 | 63 | 11 |
4 | 4 | 小川毅士 | ベータ | 4 | 79 | 8 |
5 | 5 | 柴田暁 | ヴェルティゴ | 1 | 89 | 3 |
6 | 7 | 野本佳章 | ベータ | 1 | 95 | 4 |
10 | 12 | 斎藤晶夫 | 4 | 122 | 0 | |
14 | 16 | 武井誠也 | 0 | 126 | 0 | |
15 | 11 | 砂田真彦 | 3 | 133 | 0 |
順位 | No. | ライダー | マシン | タイム減点 | 総減点 | クリーン数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 永久保恭平 | ベータ | 0 | 62 | 4 |
2 | 11 | 本多元治 | 0 | 63 | 6 | |
3 | 10 | 平田雅裕 | スコルパ | 0 | 64 | 4 |
4 | 13 | 久岡孝二 | ガスガス | 0 | 67 | 4 |
5 | 3 | 徳丸新伍 | 0 | 70 | 2 | |
6 | 2 | 村田慎示 | 0 | 70 | 1 | |
8 | 24 | 小野貴史 | 1 | 76 | 5 | |
9 | 19 | 松浦翼 | 0 | 80 | 3 | |
16 | 6 | 寺澤慎也 | 0 | 83 | 3 |
順位 | No. | ライダー | マシン | タイム減点 | 総減点 | クリーン数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 6 | 西村亜弥 | ベータ | 0 | 32 | 9 |
2 | 1 | 小谷芙佐子 | スコルパ | 0 | 48 | 3 |
3 | 2 | 小玉絵里加 | 0 | 53 | 3 | |
4 | 5 | 寺田智恵子 | シェルコ | 0 | 73 | 0 |
5 | 3 | 稲垣和恵 | シェルコ | 0 | 77 | 0 |
順位 | No. | ライダー | マシン | 総合ポイント | |
---|---|---|---|---|---|
- | 1 | 1 | 小川友幸 | 114 | |
- | 2 | 2 | 黒山健一 | ヤマハ | 104 |
- | 3 | 3 | 野崎史高 | スコルパ | 94 |
- | 4 | 4 | 小川毅士 | ベータ | 78 |
- | 5 | 5 | 柴田暁 | ヴェルティゴ | 64 |
- | 6 | 6 | 田中善弘 | ベータ | 57 |
- | 9 | 12 | 斎藤晶夫 | 36 | |
▼ | 14 | 11 | 砂田真彦 | 6 |
順位 | No. | ライダー | マシン | 総合ポイント | |
---|---|---|---|---|---|
▲ | 1 | 13 | 久岡孝二 | ガスガス | 86 |
- | 2 | 2 | 村田慎示 | 83 | |
▼ | 3 | 24 | 小野貴史 | 81 | |
- | 4 | 1 | 永久保恭平 | ベータ | 77 |
▲ | 5 | 11 | 本多元治 | 65 | |
▼ | 6 | 7 | 磯谷玲 | ベータ | 53 |
▼ | 9 | 6 | 寺澤慎也 | 43 | |
- | 10 | 3 | 徳丸新伍 | 40 | |
▲ | 15 | 19 | 松浦翼 | 14 |
順位 | No. | ライダー | マシン | 総合ポイント | |
---|---|---|---|---|---|
- | 1 | 6 | 西村亜弥 | ベータ | 120 |
- | 2 | 2 | 小玉絵里加 | 96 | |
- | 3 | 1 | 小谷芙佐子 | スコルパ | 94 |
▲ | 4 | 5 | 寺田智恵子 | シェルコ | 57 |
▼ | 5 | 3 | 稲垣和恵 | シェルコ | 57 |
- | 6 | 4 | 佐々木淳子 | ベータ | 41 |
小川友幸(優勝)
「序盤の第2セクション、2ラップ目の第11セクションと、情けないミスがありました。特に終盤のミスは、あれがなければ勝っていた計算ですから、惜しい結果となりました。ライディングのミスではなく、本当にわずかな気の迷いだったのだと思うのですが、それで結果が変わってくるのがトライアルです。練習もする必要がないようなポイントでの失敗で、今日は試合を失いました。1敗したあと、もう負けないと誓って戦ってきたのですが、自分の失敗で2敗目を喫することになりました。それでも、最終戦は気持ちを切り替えて、シーズンを締めくくるいい走りをして、タイトルを獲得したいです」