モータースポーツ > 全日本モトクロス選手権 > 全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート > vol.33 目標は優勝。しかしタイトルを見据えた戦い方が重要

全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

HRC
  • HRC
  • HRC
  • HRC
vol.33 目標は優勝。しかしタイトルを見据えた戦い方が重要

vol.33 目標は優勝。しかしタイトルを見据えた戦い方が重要

全日本モトクロス第4戦(6月5日・菅生・スポーツランドSUGO)におけるTeam HRCのリザルトは、成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1総合優勝(優勝/2位)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2総合8位(22位/3位)でした。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に第4戦を振り返っていただきます。

今回の菅生は非常に重要な一戦でした。IA1の成田に関しては、前戦広島(世羅グリーンパーク弘楽園)のヒート2でずるずるとポジションを下げ、8位に甘んじていました。体調不良という事情があったものの、負け方としてはあまりいいかたちではなかったです。それを受けて地元の菅生ですから、ここできっちりと巻き返すことが、今後のシリーズの流れを引き寄せるためにも大事だと考えていました。

IA2の能塚については、開幕以来無敗の連勝を維持してきたので、これ以上の成績はありません。とはいえシーズンを通して考えると、全勝できるほど甘くはないですし、いつかは負ける日が必ず来ます。ですから、トラブルやクラッシュの発生なども想定しながら、例え何位であったとしても、しっかりレースを走りきることを心がけるようにしていました。普段から「絶対に勝たなければいけない」などというプレッシャーはかけていません。もちろん、IA1のタイムという目標設定はしていますが、事前のテストでそれは実現できていました。とにかく能塚は順調のままで、不安は全くありませんでした。

今回の菅生はいつもより路面が荒れていなくて、ギャップやワダチが少なかったですね。ハードパック(硬質の路面)になったのは、水不足と掘り起こしの少なさの影響でしょうか。ほこりが多く、昔の菅生を思わせるコンディションでしたね。勝谷武史コーチが「これならオレでも楽勝!」と言うほどで、事前テストのときから同様のコンディションでした。しかし、平坦なハードパックになると、テクニックによるスピード差、タイム差が出にくくなることもあり、接近したレースになると予想していました。成田は練習ではタイムが出ていなかったのですが、予選ではしっかりとしたレース運びとスピードを発揮しました。前戦から調子を上げてきた平田優選手(ヤマハ)を抜いてのトップフィニッシュだったので、広島での不振からはすっかり立ち直った印象でした。

IA1のヒート1では、スタートをきっちり決めて前に出たのですが、荒れの少ないコースコンディションで差が開かないため、後続を突き放せませんでした。ぴったりマークを受けてラインを観察されてしまうので、成田は非常に苦しい立場に置かれていました。そんな、逃げるよりも追いかける方が有利な状況にもかかわらず、トップを維持してレースを支配したのはさすがでしたね。ヒート1のリザルトを見ると、19台出走した中で周回遅れになったのは2台だけですし、トップから19位までのラップタイムの差は4秒ほどでしかない、まれに見る接戦でした。だれかが抜け出せるようなレースではなく、みんなが速かったのです。

ヒート1の接戦で相当スタミナを消耗したでしょうし、ここからが踏ん張りどころだと成田に伝えました。なにがなんでも優勝を狙うのではなく、タイトルの獲得を見据えて、着実に表彰台を目指そうと…。成田も同じように捉えていたようです。

そうしてヒート2は、読み通りの展開になりました。平田選手がトップに立ち、2番手に成田というオーダーでしたが、かなり離される時間帯がありました。先ほどは追いかける方が有利だと言いましたが、今回の菅生には平田選手の走り方が、成田のそれよりもマッチしていたようです。高いギアで大きなアールを描く平田選手のスタイルは、ワダチもギャップもないハードパックの菅生で有効でした。一方の成田は、スロットルのオンオフが激しく、高回転域を多用するタイプです。2スト乗りと言ってもいいでしょう。エンジン特性が自ずと高回転型になりますし、こういった路面でのトラクションの向上は、開発における課題でもあると思います。

優勝/2位となった成田は総合優勝を果たし、ランキングトップの座を保っています。シーズンを俯瞰すると、ライバルたちが調子を上げてくれば混戦になりますし、開幕から達成した5連勝みたいなことはそうないと思っています。もちろん、毎レースで優勝を狙っていることは確かですが、勝てなかったときにどういうレースをするのかが問われるのではないでしょうか。スタートに失敗したり転倒したりした場合でも、大きく崩れないこと。ヒート2で平田選手に逃げられたとき、ムキにならず最終的に2位でフィニッシュできたことはよかったです。特に成田は、勝利にこだわるライダーなので、目の前にだれかがいる状況でのリスクマネージメントがカギになると思います。

IA2の能塚については、勝ち負けにこだわるのではなく、速さを意識するように指導してきたつもりなのですが、そううまくはいかないものです。事前テストでは勝谷コーチより速かったときもあり、好調のまま今大会に臨みました。ところが、土曜日のプラクティスで思うようなタイムが出せず、そこから焦り始めたようです。そして予選レースで転倒。実はKYBジャンプの手前で、インを飛ぶかアウトを飛ぶか迷っていました。事前の走行ではアウトの方が速かったのですが、イン側のコブのかたちが少し変わって速くなったようで、迷いながら進路を変えた結果、滑って横向きに飛んでしまった。身体のダメージ以上に、本人の中にいつもと違う不安というか、迷いのようなものが芽生え、答えが見つからないまま決勝に臨んでしまいました。

ヒート1はスタートで出遅れ、他車と絡んで転倒。今までと違って多重クラッシュだったので、他車の下敷きになり再スタートが遅れました。相当焦っていましたね。第2戦川越(オフロードヴィレッジ)では、転倒しても追い上げて優勝できましたが、今回は焦れば焦るほど路面を捉えられないようなコンディションでしたので、ばん回しなきゃいけないという気持ちが空転していました。2度目の転倒も他車との接触によるものです。13番手まで上がっていたので、その流れでよかったのですが、能塚本人の感触としても焦りを払拭できていなかったようです。ボードで「1点でも取るぞ!」と伝えていたのですが、追い打ちをかけるような3度目の転倒。その後「ゴーグルに石が入って走れない」とピットインしたのですが、その時点ですでに弱気になっていましたね。そこで完全にポイント圏外の22位になってしまったので、今までに経験のないシチュエーションに相当落ち込んでいました。

昼のインターバルに能塚と話し合い、「済んでしまったことは仕方がないけれど、何位でもいいからレースを捨てない走りをしよう」と伝えました。ヒート1のノーポイントで落ち込むのも分かるけれど、逆にヒート2で取り返そうと焦れば、また転ぶかもしれない。切り替えてしっかり走りきろうと。

ヒート2の能塚は、2番手まで上がったところで、足を踏ん張れずにコースアウトしました。ヒート1で転倒を繰り返したので、身体のあちこちを打撲していたし、スタート時の転倒ではマシンの下敷きになってやけどもしていました。ヒート2の結果は3位でしたが、身体も心も痛かったようです。

開幕6連勝のあとに22位と3位ですから、能塚には負けた理由を考えてみる、いい機会になったと思います。なんとなく勝ち続けているままだと、来年以降に強敵が現れて勝てなくなったときに、自分を見つめ直す材料がない。ポジティブに考えれば、早い時期に負けるシミュレーションができてよかったと思います。いや、シミュレーションではなく現実でしたが。それでも、ポイントリーダーの座は安泰です。

レース後、能塚といろいろな話をしました。「今日はだれともレースしていなかったじゃないか…」「だれに負けたのかな…」「自分に負けたんだよ…」「日頃から自分に勝っていないから、レースで弱さが出たんじゃないかな…」。納得してうなずく能塚の表情からは、新たなモチベーションが感じられました。