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全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.32 序盤3戦を終えてTeam HRCはさらなる高みを目指す

vol.32 序盤3戦を終えてTeam HRCはさらなる高みを目指す

全日本モトクロス第3戦(5月15日・広島・世羅グリーンパーク弘楽園)におけるTeam HRCのリザルトは、成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1総合3位(優勝/8位)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2完全優勝(優勝/優勝)でした。今回の現場レポートでは、Team HRCの勝谷武史コーチに第3戦を振り返っていただきます。

成田は開幕5連勝でストップしましたが、能塚は好調をキープして無敗の6連勝。鬼門というほどではありませんが、なにかと変化が起きやすい広島を乗りきって、IA1/IA2ともにポイントランキング首位を守っているわけですから、Team HRCとしては文句のない成績を残せたと思います。

過去の成田の広島大会を振り返ってみると、12年第3戦=優勝/優勝、12年第8戦=6位/優勝、13年第3戦=優勝/10位、14年第3戦=3位/5位、14年第8戦=2位/2位、15年第3戦=5位/5位、16年第3戦=優勝/8位と意外なことに優勝回数が少ない。逆に言えば、Team HRC初年度のピンピンや今回の体調不良でありながら1勝を挙げたことが、評価されるべきじゃないでしょうか。

ヒート1の成田はよかったです。前半に逃げて、後半になって平田選手(ヤマハ)が4秒差まで詰めてきたけれど、そこからまた盛り返して7秒以上の差で勝ちました。ただ体調的には辛かったようで、昼休みはサイン会に出ないで休んでいました。風邪みたいな感じでした。

ヒート2は途中で気持ち悪くなったみたいで、ペースアップできないまま徐々にポジションを下げていきました。それでも総合3位ですし、チャンピオン争いをするシーズンの中では、こういう日もありますよ。もちろん目指していた全勝はここで途切れましたが、気持ちをリセットしてまた1勝ずつ積み重ねていくでしょう。僕はアドバイザーですが、なにも言いません。本人が一番わかっていることですから。

能塚のレースに関しては、彼のいいところが出ていました。路面も良好だったし、いつもの広島らしいコンディションで、前半で逃げてから落ち着いて走っていました。ヒート1では竹中選手(スズキ)に4秒差、ヒート2では岡野選手(ヤマハ)に17秒差をつけて勝ちましたが、後半ペースを落としても勝ててしまうのはどうなのかと。実際ラップタイムは3〜4秒ぐらい落ちている。能塚が速いのか、ほかのライダーが遅いのか、その辺が疑問です。

中だるみとか腕上がりはあるだろうけれど、マージンを計算して流すようではいけません。僕も一昨年の全日本でそういう勝ち方をしたことがあったけれど、伸び盛りの若いライダーが同じ戦い方ではいけないと思います。

チームでは能塚に250ccで450ccのレースタイムに勝つように目標設定していますが、今回のヒート1ではIA1優勝の成田が33分09秒571、IA2優勝の能塚が32分51秒267でした。撒水や路面状況の違いもありますが、ヒート1では能塚が目標をクリアしていたわけです。

ピンピンだから上出来なのですが、僕の印象では100点満点で70点。一生懸命なのかもしれないけれど、僕の目にはそうは見えません。

チャンピオンの富田が抜けたIA2で、ワークスマシンに乗っているのは能塚とスズキの竹中選手だけですし、そこで勝つのは当たり前だと思います。今は全日本チャンピオンを取ることが仕事ですし、そこを目指していても構いません。ただしもっと意識を高く持っていないと、全日本止まりのライダーになってしまうと思います。本人次第ですけどね。

今回の能塚の走りでよかった点は、自分の判断でラインを変えていたことでしょうか。僕は最終からの登りの上からインフィールド辺りを俯瞰していたので、ラムソンの裏側の方は見ていないのですが、最終コーナーの手前や、一つ前のコーナーの手前などで、クレバーな面をみせてくれました。

途中まではギャップがあるところに入って、1度グッと止まってからコーナーに入る悪いラインだったのですが、早めに自分で気付いて変えたのがよかったです。最終コーナーのクリッピング付近ですが、ラインを1本イン側にずらすことで、ギャップのないところで向きを変えるように自分で修正していました。

レース前には撒水ポイントなどの注意点を無線で伝えて、チーム全員で共有していますが、レース中にライン取りの指示は出しません。例えばメカニックから「ラインはどうですか」と聞かれたら、「今のままでいいですよ」という程度のコメントはします。

ただ、ラインが悪かったときに「悪い」って伝えても、果たして修正できるのか。仮に「8番イン側」と言ったところで、それがライダーの迷いにつながってしまう。事前に打ち合わせして選択肢が用意されているならいいですが、突然「8番イン側」と言われても修正できないでしょう。

事前テストでは、成田や能塚と一緒に走っていますが、能塚相手の練習の方が多いですね。一発タイムでは僕の方が速いのですが、長く走ったアベレージでは能塚の方が速い。僕なりの言い訳になりますが、もっと自分用にセットアップされたマシンだったら、能塚なんかに負けませんよ。

走り方は並んでヨーイドンではなく、能塚が先にスタートして、僕が10秒後に450ccで追いかけるかたちです。引っ張るんじゃなくて押すんですよ。なぜかというと、今の状況だと能塚は序盤から飛び出して逃げるパターンしかないので、追い付かれたときの状況を作り出してシミュレーションしているのです。真後ろから突っつかれるときのプレッシャーに、どう対処するかという練習です。

僕は250ccの方が得意ですが、450ccで追いかけます。能塚のマシンはワークスの250ccですから、さすがにノーマルの250ccじゃかないませんよ。でも450ccなら追い付けます。ノーマルと言っても、サスぐらいは合わせますけどね。たとえばオフビレ(川越・オフロードヴィレッジ)だったら、10秒遅れでスタートしても10分ぐらいで追い付きます。そこからはプレッシャーをかけたのですが、能塚はかなり耐えていましたね。

25分ぐらいで止めておきました。今の僕はレーサーじゃないので、それ以上の無茶はできないからです。もちろん休んでいるわけじゃないけれど、フィジカル的には70%ぐらい。でも仮にチームからレースに出ろと言われたら、1カ月らいで100%まで上げられます。エントリーの締切が1カ月前だから、来週出ろという話にはなりませんけど、準備はしています。

だから自転車は、週に250kmぐらい走っています。1日60〜70kmを週に4日です。成田も一緒です。こっちから強制しているわけじゃなく、成田の方から「今日は自転車に乗ろう」って誘ってくるほどです。だから彼はフィジカル的に相当充実していますし、今は心身ともにベストと言えますね。

成田のライディングに関しては、あまり言うことがありません。例えばあるコーナーのライン取り、第三者が「そっちじゃなくてこっちの方が速そう」って言うかもしれない。一理あるけれど、僕は事前テストで成田と一緒に走っていて、そこには入れないことがわかってるから、いい加減なアドバイスはできないし、成田も僕が言えない理由を知っている。言うことがないわけじゃなくて、わかっていることだからいちいち言わない。そんな感じです。

あとはマシンですね。プロトタイプとはいえ開幕5連勝しているし、ポテンシャルが十分あるので、もっと仕上げる作業に集中させたいです。いくらいいマシンでも全コースに合っているわけじゃないので、詰めて行く余地はかなりあります。問題はなにもないので、時間が解決するはずだし、そういったハード面でも力になってあげたいと思っています。