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全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.31 開幕に続き両クラスを完全制覇したチーム力とは

vol.31 開幕に続き両クラスを完全制覇したチーム力とは

全日本モトクロス選手権 第2戦(4月17日・川越・オフロードヴィレッジ)で、Team HRCは開幕戦に続き4ヒート全勝を果たしました。パーフェクトの内訳は、成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1完全優勝(優勝/優勝)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2完全優勝(優勝/優勝)。今回の現場レポートでは、Team HRCの河瀬英明チーフメカニックに第2戦を振り返っていただきます。

熊本県で大きな地震が起きた直後だっただけに、今大会には特別な思いで臨みました。熊本にはHondaがCRFシリーズの開発と生産を行う拠点がありますが、関係者だけでなく被災された人たちすべてを勇気付けるようなレースがしたい、そんな願いをチーム内で共有していました。

また、オフロードヴィレッジでは過去にいろいろな出来事があったので、どんなことが起きても冷静に対処できるように、ミーティングで確認していました。例えば、コースアウトから復帰する際にショートカットと認定されてしまったことや、ウイニングランでチェーンに石が噛んでしまい、メカニックが修理したため問題になったこと。ただの巡り合わせだったのかもしれませんが、そういったハプニングの連鎖を断ち切ることも課題の一つではありました。

成田のレース展開は完ぺきでしたね。スタートから飛び出して、後ろとの距離を測りながらもペースを落とさず、上げるところは上げていました。ただし竹林の方にみんなが飛んでいるダブルがあったのですが、成田は強風であおられることを想定して無理に飛ばないようにしていました。深谷選手も飛ばずにいいタイムを出していました。彼は公式練習から速かったので、当然マークの対象でした。他社のワークスチームはもちろんのこと、星野優位選手など会場ごとに好調なライダーがいれば、その都度マークするようにしています。

ライン取りなどについては、チームが事細かく指示しているわけではありません。客観的な情報は共有しますが、走り出したらライダーの判断に任せる部分の方が大きいです。ただ、スタートを決めようということだけは念を押していました。やはり狭いコースなので、出遅れて追い上げるのは非常に不利。成田はもちろん自覚していて、事前テストでもスタート練習に相当時間をかけていたので、その成果の表れでしょう。

オフロードヴィレッジのスタート地点はゲートの土台がコンクリートで、なおかつ金属のパイプで囲われているため、段差もあり非常にトリッキーです。タイヤはスタートの瞬間、土から金属、そしてコンクリートと異なった表面を通過するわけですが、ここをうまくクリアすることが好スタートのカギになります。ライダーの反射神経に加えて、スロットルワーク、クラッチワーク、ボディーバランスなどのテクニックが司る部分ですが、ハード側で助けられることがあればやっています。

例えば状況に合わせたPGM-FIのセッティング。オフロードヴィレッジの路面は、概して関東の河川敷特有の硬質土がベースにあります。表面はウッドチップで覆われていますが、タイヤが食い付くのはその下の硬い土なので、できるだけパワーが効率よく路面に伝わるように設定をアジャストさせます。スタートモードには、発進からゲートを通過して加速するまでの理想的なエンジン特性がセットしてあります。

走行中にマップを切り替えることも可能ですが、これはメインに対するサブとして、ライダーが用意しておきたいマップがあれば入れておくという考え方。例えば雨が降りそうだったら、ノーマルよりもマイルドなセッティングを用意しておいて、いつでも切り替えられるという仕組みです。

いずれにしても成田の場合、理屈よりも気持ちで勝つようなところがあり、今季は特に精神面の充実ぶりがすごいと思います。プレッシャーもかなり背負っているらしく、開幕戦は特に緊張していたようです。レース後も「やったー!」ではなく「よかった」という表情をみせていました。開幕戦でピンピンを取っても満足することなく、川越に来たら気持ちを白紙に戻して、ほかのライダーのタイムや走り方を研究していました。シーズンを見据えて戦っている姿勢が伺える、正にプロフェッショナルですね。

レース前は厳しい表情をしている成田ですが、それ以外ではリラックスできています。新加入の勝谷コーチの効果もありますし、パドックの雰囲気が非常にいい。勝谷は成田にもアドバイスしていますが、ある程度は尊重して任せている。それよりも能塚に対しては、ガンガン説教しています。勝ったレースの後でも、「450に負けてるぞ」とか「あそこのライン取りが雑だ」といった調子です。

実際、能塚も開幕4連勝で成田と肩を並べる成績なのですが、今大会のヒート1では勝ったものの、後半に3秒ぐらい落ちていたので勝谷に説教されていました。後半になると岡野選手(ヤマハ)が接近してきたのですが、そういう姿をみせると自信を与えてしまうから、相手があきらめるくらいぶっちぎれ、そう言い聞かせていました。

私は成田のサブメカニック登録なので、IA1のときはサインエリアにいました。IA2のレース中は松健ストレートの方で、能塚の走りを見ていました。

ヒート2の能塚は、1周目に転倒してほぼ最後尾からの優勝ですから感心しましたね。1つのコーナーで2人抜いたり、途中でつっかえたりすることが皆無だった。あれほどの走りは見たことがない。神がかっていました。ただ、すごいことはすごかったんですが、なんでこの走りがヒート1で出せないのか? 1回コケた方がいいのか? チーム内ではそんな話で持ちきりでした。

能塚の急成長ぶりをみていると、勝谷コーチの効果がてきめんに出ているのを感じます。一緒に練習すると、勝谷と能塚はほぼ同タイムで走っていますし、練習チャンピオンと言われますが、とにかく速くていい練習相手になっている。自転車トレーニングでも勝谷が引っ張っていますね。成田にも刺激になっているようですし、ある程度フィジカル面にも気を付けているから身体が動いているのかなと思います。

開幕からの両クラス4連勝は、順調すぎるという気もしますが決してまぐれではなく、ライダーの実力にチームのハードとソフトがうまく噛み合った結果だと思っています。勝てるライダーが2人揃い、チームとして全力を注ぎ込めば負けるはずがない、そんな手応えを感じています。