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全日本モトクロス2016 Team HRC現場レポート

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vol.30 開幕戦での両クラス完全優勝を引き寄せたチームの取り組み

vol.30 開幕戦での両クラス完全優勝を引き寄せたチームの取り組み

全日本モトクロス選手権で、IA1クラスとIA2クラスでのダブルタイトルを目指すTeam HRCは、開幕戦(4月3日(日)・熊本・HSR九州)の決勝で、4ヒート全勝という最高の成績を収めました。成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1完全優勝(優勝/優勝)、能塚智寛選手(#28・CRF250RW)=IA2完全優勝(優勝/優勝)。この現場レポートでは、芹沢直樹監督の目線で、Team HRCの開幕戦を振り返ります。

我々が参戦している全日本モトクロスの国際A級には、合計4ヒート(IA1クラス×2とIA2クラス×2)の決勝レースがあります。今回はその4ヒートすべてで勝利を収めることができたので、非常にうれしく思っています。4ヒート完全優勝は、最近ですと2015年の第4戦菅生(スポーツランドSUGO)と第8戦名阪(名阪スポーツランド)で達成していますが、ライバルチームも優秀なライダーとマシンをそろえており、しのぎを削っているので、決して簡単なことではありません。

今シーズンは特に、ライダーが2人体制(各クラス一人)になったり、チームのトラックが新しくなったり、マシンの性能面で思い通りに出せたところとそうでないところがあったりと、準備万端と言いきれる状態ではありませんでした。ライダーの人数については、3人や4人体制では集中できなかったというわけではありませんが、各クラス一人に絞ることで、スタッフの役割分担がより明確になり、チームとしての集中力がアップしました。

開幕戦に投入したマシンは、450ccがプロトタイプ、250ccが熟成モデルという違いがありましたが、450ccに関しては、成田が求める性能がすべて実現できていたわけではありません。彼はエンジンにも車体にも非常に高い理想を持っていますので、まだまだ改善できる部分があると認識しています。当日の成田ですが、フィジカル面をしっかり仕上げてきていました。メンタルの方は、割と自信満々でリラックスしている面と、研ぎ澄まされた感じで神経質になっている面がありました。ここ何年かを振り返ってみても、一番集中していたように見受けられました。開幕戦における5年連続ピンピン(優勝/優勝)という記録もかかっており、自信とプレッシャーを同時に感じていたんでしょうね。開幕戦ならではの緊張もあるはずなので、まずはしっかりと走りきることを目指そう。レース前にそう念押ししたんですが、「絶対に勝つぞ」というオーラが出ていました。

成田のレース運びは、両ヒートとも早めにトップに立ち、独走しながらも攻め続けるという凄まじいものでした。特にヒート1の中盤以降は、少し抑えてもいいんじゃないかと思うくらい攻めていましたね。成田に対しては、2位のラップタイムとの比較を伝えていたんですが、9周目(小島庸平選手(スズキ)=2分7秒673/成田=2分7秒675)を除く全周でだれよりも速いタイムを出していました。ちなみに成田のベストラップは、2周目に記録した2分5秒504です。

チームとして目標を設定していたわけではなく、成田自身が独走しても緩めないようにと心がけた結果です。前後にだれもいなくなると、競る相手が見えてくるまではついつい無難なペースに落としがちですが、成田は何秒リードしていても攻める姿勢を崩しませんでした。そんなわけで走りに関しては、安心というか信頼していました。

成田はもともとスタートがうまいライダーですが、シーズンオフの間にさらに精度が向上したので、スタートが決まることは予想していました。確信できたのは、事前テストでの取り組みがあったからです。今までの成田は一人でスタート練習をやってきたんですが、今年から富田俊樹も同じ450ccに乗せて、一斉にスタートするシチュエーションを作りました。データを解析してみると、成田のスタートに改善すべき点が見つかりました。具体的には言えませんが、プログラムの設定変更などで、成田のホールショットを確信できるまでに、スタート性能を向上させることができました。

シーズンオフのマシンテストには、HSR九州はもちろんのこと、沖縄にも行きました。冬でもレギュラーシーズンの気温で性能を確認できることと、名護市でのオールスターモトクロスin OKINAWA(3月6日(日)・沖縄・ImaNAGOクロスフィールド)への参戦で、格好のシミュレーションができるからです。沖縄を含めて何カ所かで行ったテストには、富田に加えて、今年からアドバイザーになった勝谷武史も帯同しました。勝谷には能塚の練習相手として走ってもらっていますし、富田も成田と一緒に練習しています。フリーで走っているときは、成田よりも富田の方がラップタイムが速いことがありますが、レースになると成田の方がどん欲で、勝利に対する執念が凄まじい。データでは説明できない領域かもしれませんね。

今大会の能塚に関しては、期待以上の走りをしてくれました。アメリカ合宿から帰国したばかりのころは、なんとくなく硬いところもありましたが、その辺りは本番に向けて修正できていました。だから、レースではどうなのかと考えることはありましたが、ライディングに関して注文をつけることはなかったです。今回も公式練習では、あまりタイムが出ていなかったんですが、いざレースが始まってみると速くなる。いいレーサーだな、と思いました。

能塚には、IA2でトップに立っても慢心することなく、IA1のフィニッシュタイムを意識して走るよう、目標を設定していました。具体的には成田との比較になりますから、成田を目指して走れば速くなるだろうと。昨年の富田にも言っていましたが、トップに立ったら後ろを気にして守るのではなく、自分のもっと先に成田がいることを意識して走ってほしいという気持ちを込めました。

ヒート1のフィニッシュタイムを比較すると、IA1で上位だった成田=33分52秒273、小島選手=34分17秒634、新井宏彰選手(カワサキ)=34分19秒514に続き、IA2の能塚=34分23秒045は、IA1で4位に相当するポジションでした。ヒート2はIA2の周回数が少なかったので比較はできませんが、これは能塚のペースが遅かったので、30分を経過してL1(ラスト1周)のボードが提示されるタイミングが1周早まったということです。

開幕戦は福岡出身の能塚にとって、地元ラウンドと呼べるレースだったかもしれませんが、本人によるとHSR九州ではあまり練習してこなかったようですし、特に地元らしいアドバンテージはなかったようです。レース中は独走しても、スロットルを戻さずに回していたので、勝ちたい気持ちは伝わってきましたね。

ヒート2ではエンストしてしまいましたが、再スタート後は鬼気迫る追い上げを見せてくれました。エンストは彼特有のポジションの影響もあって、クラッチレバーを完全には握っていなかったためです。その辺りや、回さなくても速く効率的な走りができるように、課題を一つずつ克服できればと思います。

開幕戦のまとめとしては、両ライダーの走りがすばらしかったことに尽きます。プロトタイプの初優勝という点では、沖縄でエンジンに不調が発生したことで対策を施し、開幕前に不安要素を取り除くことができました。ですので、イレギュラーな出来事も無駄ではなかったです。それが今回の勝利につながったのだとポジティブに捉えています。