モータースポーツ > 全日本モトクロス選手権 > 全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート > vol.29 豪華な戦いとなった最終戦

全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

HRC
  • HRC
  • HRC
vol.29 豪華な戦いとなった最終戦

豪華な戦いとなった最終戦

全日本モトクロス第10戦MFJ-GP(10月25日(日)・菅生・スポーツランドSUGO)には、トレイ・カナード選手(米国・Team Honda HRC・2015年AMAスーパークロス450 ランキング6位)とティム・ガイザー選手(スロベニア・Honda Gariboldi・2015年FIMモトクロス世界選手権MX2チャンピオン)がスポット参戦し、シリーズ最終戦にふさわしい盛り上がりを見せました。レースリザルトは、カナード選手(#241・CRF450R)=IA1総合優勝(2位/1位)、ガイザー選手(#243・CRF250RW)=IA2総合3位(1位/5位)。Team HRCの成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合4位(4位/4位)、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合5位(5位/5位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2総合4位(4位/3位)。Honda勢は両クラスの表彰式でポディウムの中央に登壇しました。今回の現場レポートでは、河瀬英明チーフメカニックに最終戦を振り返っていただきます。

Hondaとして外国人ライダーを迎えるのは、2013年のイブジェニー・バブリシェフ、マキシミリアン・ナグル以来2年ぶりのことです。我々チームスタッフは普段の全日本と同じルーティンをこなしていたつもりですが、やはり外国人ライダーとスタッフが多いせいか、いつもとは違った雰囲気がありました。受け入れる方としてはテントの設営が増えた程度で、レースサポートについては各ライダーの所属チームが担当しました。

ハード的には、カナードもガイザーも今年走った本人のマシンを日本へ空輸しました。もちろん、AMAもFIMもレギュレーションが異なりますから、それぞれMFJの車検に通るように変更しました。日本サイドでマシンを用意することも可能ですが、現地調達しているパーツもありますし、やはり本人たちのマシンを持ち込んでもらう方が確実なのです。

ガイザーは10日以上前に来日して、マシンテストを行っていました。カナードは先週ラスベガスで開催されたモンスターカップに出場した後すぐに来日して、ツインリンクもてぎや栃木プルービンググラウンドを訪問。走行は菅生で乗るマシンの仕様変更を確認した程度です。

ライダー全員がそろったのは、金曜日のパドック設営時でした。カナードと成田はアメリカで一緒に走っていますし、ガイザーと富田はモトクロスオブネイションズ(国対抗団体戦)でテントを共有した仲だったりするので、すぐに打ち解けて和気あいあいという感じでした。

カナードがコースを下見するときには、チームスタッフに加えて成田と富田もついていっていました。カナードのコースチェックには、メカニックやエンジニアも同行するのがTeam Honda HRCのやり方なんだそうです。ただし今回の菅生では、カナードのメカだけは全周歩くのが辛そうで、要所要所ショートカットしていましたが……。

ガイザーはお父さんと2人で、小方は中川メカと2人でコースを歩いて下見していました。人によって個性が出ますね。いずれにしても一緒にコースチェックをすることで、ライダーとスタッフが共有する情報量が増えれば、作戦会議やセッティングの際に役立ちます。 Team HRCではミーティングテーブルの脇にビデオのモニターを置いているんですが、そこにライダー5人とコーチのベン・タウンリーが集まり、ちょっとした学習塾のようになっていました。録画した走りを何気なく見ていたりすることも多々あるんですが、今回はタウンリーが自分で巻き戻して「そこじゃなくて、このコーナーをもっとよく見ろ」という感じで熱弁をふるっていました。本当に先生のようでしたね。

ライダーの走行後の過ごし方は、クールダウンしたり、マッサージを受けたりという具合に人それぞれなので、ビデオを見るタイミングはバラバラになりがちです。ところが、今回はタウンリーが招集をかけているわけではないのに、なぜか自然に全員が集まっていることが多かったですね。カナードもタウンリーに質問しては、ライン取りを教わったりしていました。

印象的だったのは、カナードが走行後もずっとライディングウエアを着たまま、熱心にビデオを見ていたこと。日本人ライダーは戻ってくると普段着に着替えるのに、やはりアメリカではレースのインターバルが短いので、着替える時間がないんでしょうね。

カナードは誰からでも好かれる、気さくで明るいライダー。走りはホットだけどクリーンで潔い。ガイザーはやさしい青年ですが、レースになると人が変わったように攻めるし、トップを走っていてもクラッシュしたり、アップダウンが激しい。彼と一緒に1シーズン回ったら大変だろうなと思いました。シーズンオフになったら、担当した芹沢(勝樹)エンジニアの話を聞いてみたいものです。

今大会にはロマン・フェーブル選手(ヤマハ)、クーパー・ウェブ選手(ヤマハ)、ジェレミー・マーティン選手(ヤマハ)の出場もあって、欧米対決といった話題で盛り上がりましたが、IA1チャンピオン決定戦というテーマも残されていました。第8戦名阪までリーダーだった小方に関しては、クラッシュでノーポイントを喫してから難しくなりましたが、成田に限っては絶好調。ただし、成田が順当にフィニッシュしてポイントをかせいだとしても、小島庸平選手(スズキ)と熱田孝高選手(スズキ)になにかが起きないと逆転は難しい(首位小島=349、熱田=344、成田=330、小方=317)と想定していました。

そうは言っても天候に左右されることもあるし、外国人が走ることで展開が変わるかもしれない。だから少しでも上位を狙いつつ、すきあらば外国人にも勝ちたいと成田は考えていました。もちろんカナードに対しても勝つつもりだったんです。土曜日の公式練習からタイムアタック勝負のような展開になり、成田も必死になっていましたが、やっぱりカナードの速さを認めざるを得ない状況でした。

カナードと成田のベストラップタイムを比較すると、IA1決勝ヒート1では3秒落ち、ヒート2では成田が転倒して出遅れたこともあって5秒落ち。IA2では富田がガイザーとマーティンに対して3〜4秒落ちでした。外国人と日本人の差がもっとあるかと思っていたんですが、意外と近かったですね。もちろん、コースが狭いなどの要素はあったでしょう。

今回の菅生では、フープスにおけるアメリカンライダーの速さが目立ちました。ガイザーやフェーブルはもっと広いコースを全開で走るタイプなので、本領を発揮できなかったようです。フープスだけでなく、ワダチでクイックに向きを変える走りにもアメリカンの優勢が伺えました。リザルト的にも両クラスの総合優勝は米国勢がもぎ取りました。

IA1では成田が4位/4位、小方が5位/5位でしたから、3人の外国人を除けば1-2フィニッシュでした。特にヒート2の成田はスタート時の転倒から追い上げたので、ベストを尽くしたんじゃないでしょうか。タイトルは小島選手が獲得しましたが、レース後の成田はやるだけやったという顔をしていました。もちろん悔しそうではありましたが、第6戦藤沢でのDNSがバネとなって、さらに巻き直してきた気持ちが表情に出ていました。

今大会はコーチに専念していたタウンリーですが、本当は走りたかったんじゃないでしょうか。1カ月前、モトクロスオブネイションズでは、フェーブルとトップ争いをしていたタウンリーですし、ふとそんなことを考えたりもしました。

30年ほど前、1980年代の日本グランプリ(現MFJ-GP)には、欧米からのゲストライダーが多数出場していました。世界チャンピオンにスーパークロスチャンピオン。各ファクトリーのテントに少なくとも2〜3人ずつの外国人がいて、非常に内容の濃いレースを繰り広げていたと聞きます。欧米に学ぼうとする取り組みによって、日本のモトクロス界がレベルアップしたことは確かですし、今大会のような外国人ライダーの招聘は今後も続けていきたいものです。

今回のMFJ-GPの模様は、世界中から注目されていました。レースリザルトや写真が、アメリカやフランスのウェブサイトや、個人のSNSにリアルタイムでアップされ、それを菅生のパドックで見るというような現象も起こりました。これほど高まった注目度を保ちながら交流を深めていけば、日本のモトクロスが世界に広がるチャンスも出てくると思います。