モータースポーツ > 全日本モトクロス選手権 > 全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート > vol.21 河瀬チーフメカが振り返る第2戦

全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

HRC
  • HRC
  • HRC
vol.21 河瀬チーフメカが振り返る第2戦

河瀬チーフメカが振り返る第2戦

全日本モトクロス選手権第2戦(4月19日・川越・オフロードヴィレッジ)のリザルトは、成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1総合9位(7位/10位)、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合3位(2位/4位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2総合優勝(2位/1位)でした。今回の現場レポートでは、Team HRCの河瀬英明チーフメカニックに第2戦を振り返っていただきます。

富田と小方については順当と言いますか、想定した範囲内だったものの、成田が苦戦したレースでした。転倒なしの7位/10位というのは、一昨年の第3戦広島(1位/10位)を思い出させるリザルトです。本人が言うには、リズムをつかみきれなかった。ストレートを全開で飛んで行くリズムセクションや、長いフープスなどで手こずり、土曜日から人よりも速く走れていなかった。それを引きずり日曜日まで残ってしまったことが敗因じゃないでしょうか。

特殊な形のジャンプもあって、ワダチが結構できたり斜面が不均一だったりで、度々ブルドーザーが入って直すものの、転倒車が多かった。シーズンを戦う上ではリスクを避けたいので、そういう部分で慎重に構えてしまったのかもしれません。誰がどんなコースに行っても、苦手なセクションはあるものですが、大抵1ヶ所だけとか短い区間に絞られます。ところが今回の成田に限っては、例の変なジャンプ、ストレートリズムセクション、フープスといったどうもしっくり来ない箇所が長かった。苦手というわけではなく、「なんだか小方が付いて来るなぁ」といった状況から抜け出せなかったのでしょう。

最初はラップタイムの良い熱田選手や小方を相手に、気力でカバーしていました。自分が苦手とするセクションで抜かれても、得意なところでは抵抗する。そういう戦い方も誰か1人を相手にしているうちは良かったのですが、2〜3人に抜かれた後は気力が途切れてしまったような印象でした。

鎖骨の回復の影響ですが、成田本人が「全く問題ない」と言うので、その判断や意志を尊重しています。今まで間近に見てきた熱田選手も増田選手もそうでしたが、本人が大丈夫と言うときは大丈夫なんです。今シーズンの成田は、熊本では競り合った上で勝ってますから、鎖骨の影響はないと考えられます。ただし熊本はマディ、今回の川越はドライでしかもハイスピードなレイアウトだったので、その違いはあるかもしれません。

ドライコンディションでの走り込みが、不足していることは確かです。事前テストでも雨が多く、熊本は雨、川越では雪まで降ってスーパーマディでした。ただセッティングは決まっていたし、特に迷いはありません。

IA1のポイントランキングは大きく脱落していないし、トップ数人が接近している状態(熱田=78、小方=78、新井=75、成田=75)なので心配はしていません。今回の結果をもって本人が奮起してくれると信じています。

小方はシーズンオフに、ベン・タウンリー(2004年FIM MX2チャンピオン・2007年AMA SXライツ東部チャンピオン)の家に泊まり込みで練習し、ニュージーランド選手権に参戦するなど万全の状態で開幕を迎えました。体調的にもマシン的にもまとまっていたんですが、レース運びがイマイチだったので、心配はそこだけです。2番手に付けてトップを狙っていたら、後ろから抜かれて3番手になってしまった……みたいなことが多々あるので、そのあたりを克服したいと思っています。

競り合いで熱くなったり見えなくなったりしているわけではなく、小方は割と淡々と冷静に走っています。ただ前のライダーがインを閉めたのでアウトにラインを変えたら、逆に後ろからインに入られてしまった、というような勝負に甘いところがある。前後にいるのは百戦錬磨のベテランばかりなので、小方にはもっとずる賢くなって欲しいと思います。

今シーズンの小方は、これまで4ヒート中、1周目3番手以内とスタートも安定していますし、あとは競り合ったときの駆け引きだけです。体力はありますし、クレバーに戦ってほしい。争っているメンバーの中では一番若い小方ですが、客観的にはそろそろ中堅からベテランと言われてもおかしくないので。

IA2の方は順調に総合優勝を取れたんですが、ヒート1での富田のコースアウトが計算外でした。ペナルティーを受けなかったという意味では最善策でしたが、もっとロスを少なくすれば両ヒート完全優勝も狙えただけに、その点がちょっと残念です。

富田のコースアウトは、ヒート1のフープスでバランスを崩したことがきっかけでした。転倒は免れたんですが、コースへ戻る際に大きなタイムロスがありました。普通であればコースアウトしたら、そのままなりゆきでコースインしたりするのはよくあることです。ただし規則書では「止むを得ず定められたコースを外れ、再びコースに戻る場合、一時停止と安全確認を行い、外れた地点からコースに復帰しなければならない」と定められていて、Team HRCとしては小方がオフロードヴィレッジでペナルティを受けたことがあったため、レギュレーションを厳守するよう徹底していました。

富田は180度マシンの向きを変えて、コースアウトした地点までほんの数メートルですが戻りました。そこでもすぐにコースインせず、次々と来る後続車を見送ってタイミングを計っていたんです。コース端のラインが空いていたらすぐに入れたんですが、安全確認のしすぎというか、正直すぎたかもしれません。このタイムロスで富田はトップの座を岡野選手に譲り、約4秒リードしていたのが一転して8秒のビハインドとなってしまいました。

コースインの際に富田が落ち着いていたのは、岡野選手に先行されても抜き返せる自信があったからなのかもしれません。実際に富田はあきらめず、追い詰めて行きました。最後は3秒差ぐらいまでは迫ったので、チャンスはあったでしょう。それだけにタイムロスが残念でした。富田はレギュレーションとチームからの通達を守って、非常に正しいことをしたわけですが、コース脇でその一部始終をビデオ撮影していた私としては、なんとも歯がゆい思いでした。

ヒート2では能塚選手を相手に抜きつ抜かれつのデッドヒートになりましたが、富田の方がメンタル的に一枚上手だったと思います。トップを長く走っていますし、先行されても冷静でした。確かにフープスでは能塚選手の方が速かったんですが、あのペースで30分持たせるのは無理だろうし、フープス以外では富田の方が速かった。逆に能塚選手は疲れていたようです。岡野選手は公式練習からいい走りをしていましたし、能塚選手も来るだろうとマークしていました。

個人的な話になりますが、去年まではライダー担当メカニックだったので、自分が担当するライダーだけしか見ていませんでした。今シーズンからはチーフメカとして、視野を広げて全員を俯瞰しているような感じです。開幕戦で成田がピンピンを取ってくれたし、今回も富田が総合優勝してくれた。チームとしての成果がすべてうれしくて、以前とは違うやりがいと責任を感じています。

次回の広島では、いつも通り全力で突っ走るだけですね。成田と小方は心配ありませんが、富田は2位と争うのではなく前に勝谷選手がいるつもりで走ってほしい。IA1のポイントリーダーゼッケンは一旦手放しますが、またすぐに奪回します。もちろん成田用も小方用も作ってあるので、どちらがリーダーになっても大丈夫です。