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全日本モトクロス2015 Team HRC現場レポート

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vol.20 Team HRCが開幕戦で両クラスを制覇

Team HRCが開幕戦で両クラスを制覇

悪天候に見舞われマディコンディションと化した全日本モトクロス選手権開幕戦(4月5日・熊本・HSR九州)で、Team HRCは両クラスを制覇しました。成田亮選手(#1・CRF450RW)=IA1完全優勝(1位/1位)、小方誠選手(#2・CRF450RW)=IA1総合3位(3位/4位)、富田俊樹選手(#317・CRF250RW)=IA2総合優勝(3位/1位)。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督に開幕戦を振り返っていただきました。

新しいシーズンの開幕戦で、両クラスをモノにできたことが何よりでした。実はTeam HRCが両クラスの総合を獲るということは、昨シーズンは一度もなかった快挙なのです。'14年序盤戦は成田の連勝に加え、第3戦広島では小方も勝ち星を挙げていましたが、IA2では勝谷選手にリードされていました。第7戦名阪から富田が勝ち出すと、対照的にIA1では平田選手の台頭やクーパー・ウェブ選手の活躍があり、Team HRCとしての両クラス総合優勝はありませんでした。そんな成績と比較すると、今年の開幕戦はまずまず良かったと思います。

コンディション的には全員が万全というわけではありませんでした。富田の場合は肩の手術後の安静期間が長く、1ヶ月少し前に乗り始めたばかりだった割には調子が良かったのですが、ちょっと硬くなっていたようです。成田は冬に骨折した鎖骨が完治していないのですが、医師の診断によると周りの筋肉がしっかりサポートしているので、違和感があるかもしれないが参戦に問題はないとのことでした。

鎖骨を折ってからは少し慎重になっていたようです。名護オールスターモトクロスでは本気を出していましたが、事前テストでは無理にタイムを出さずに調整してきました。成田がオールスターで見せたスピードを発揮できれば、なんとか勝てるだろうと読んではいましたが、開幕戦の本番にピークを持ってきたところなどはさすがです。

今年からベン・タウンリー(2004年FIM MX2チャンピオン・2007年AMA SXライツ東部チャンピオン)にライディングコーチをお願いしているのですが、成田のパフォーマンスにはタウンリーも驚いていました。事前テストではそれほど乗れていなかったのに、本番であんなに速く走れるとは気持ちの強さ以外にはないと。小方と富田にも「成田のメンタルを見習うように」と言っていました。なかなか真似できるものではありませんが…。

タウンリーは事前テストに続いて2度目の来日です。全レースに帯同するわけではありませんが、まずは日本のレースを見てもらおうということで呼びました。菅生の日本GPに出場した経験はありますが、あれは世界選手権だったので全日本とは別物です。タウンリーはニュージーランド人ですが、非常に真面目で研究熱心なところが日本人の気質に合っているような気がします。早速、「日本の文化を吸収したい」と言って、飛行機に乗る時にマスクをするようになりました。まあ、それはさておき、日本に溶け込むスピードはアメリカ人の比ではありません。

実はタウンリーが来たHSR九州は、事前テストの時も今回も雨だったので、彼には当然のごとく「レインマン」というニックネームが与えられました。ところが彼は嫌がるわけでもなく意外と喜んでいて、「洗車してくれるメカがいるんなら、オレはむしろマディが大好きだ」と言うんです。そんなタウンリーのアドバイスは、今回の開幕戦に十分に生かされました。とにかくスタート重視という前提がまずあって、ゲート選びからスタートテクニックまで、事前テストの時から教わっていました。サイティングラップをパスしたのも、タウンリーのアドバイスによるものです。

コースの中でもポイントとなりそうな場所を重点的に見て、ライン取りなどを助言してもらいました。Team HRCではライダー別にミーティングを行っていますが、タウンリーも同席しています。さすがだと思ったのは、成田に関してはあまり細かな指示をせずにライダーを尊重しつつ、小方と富田に対してはかなり引っ張り上げようと頑張っていたことです。短期間でチームに馴染んで、しかも空気まで読めているところはさすがでした。

雨に対する準備は、昨年からチームが一丸となって取り組んできましたし、その経験やデータを生かせたので、特に慌てることもありませんでした。HSR九州の土質は事前テストの時よりは砂が増えましたが、今週末の雨でだいぶ流れました。去年の開幕戦よりは砂が少なかった印象です。

レース内容では、成田のパフォーマンスが目立っていました。昨年は前人未踏のV10というチャンピオン記録を達成して、普通ならモチベーションが鈍っても当然なのに、いざレースが始まって走り出すと闘争心を剥き出しにして戦う。やはり成田は成田で、タウンリーが驚くのも無理はありません。ただのイケイケではなく、リスキーなジャンプでは無理して飛ばないように決めていたのを見ると、長い目でチャンピオン防衛を考えているようです。

小方については、ケガもなく練習を重ねてきましたし、コンディションは万全でしたが、去年からの課題がまだ克服できていない面がありました。具体的にはスタートをモノにすることと、競り合いにおける強さが足りなかった。ヒート1で成田を抜いてトップに立ったところまでは良かったんですが、すぐに抜き返されて再逆転できずにいる間に熱田選手に先行を許してしまいました。他車と競り合う時はレコードラインを外して仕掛けるわけですから、相手の動きを読んだり揺さぶったり、その辺りの強さを身に付けて欲しいと思います。小方は冬の間ニュージーランドでタウンリーの指導を受けていますから、その成果を発揮してくれる日は近いと信じています。

富田は緊張がすべてだったようです。勝谷選手が出場できない今年は自分しかいない…という状況の中で、昨シーズンとは違うプレッシャーがかかっていたのかもしれません。ヒート1では竹中選手に逃げられましたが、ヒート2では昨年チームメイトだった田中選手に抜かれてから、徐々にほぐれてラインの修正も上手くできたようです。

開幕戦の手応えですが、結果としては良かったけれど、厳しいシーズンになりそうな予感がします。熱田選手や小島選手が絡むということは、成田と小方が大差で逃げきった昨年の開幕戦と比べると、周りとの差があまりないということでしょう。いい流れではあると思います。

富田のライバルとしては、竹中選手、渡辺選手、田中選手あたりが強敵です。それから大塚豪太、古賀太基、馬場亮太、アメリカ合宿に行ったHondaの若手が元気いい。大塚はヒート2で4位、古賀と馬場はマディに苦戦していたようですが、ところどころで光る走りを見せてくれました。Hondaの若手育成プログラムの成果が、意外と速く結実しそうです。