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全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

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vol.18 2014年シーズンを振り返って

2014年シーズンを振り返って

全日本モトクロス選手権は最終戦まで日程を消化。Team HRCはIA1クラスで3連覇を達成し、IA2ではランキング2位を獲得しました。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢直樹監督代理が、第7戦名阪(名阪スポーツランド)、第8戦広島(世羅グリーンパーク弘楽園)、最終戦菅生(スポーツランドSUGO)の熱戦に触れながら、シーズンを総括します。

2人のディフェンディングチャンピオンを擁し、両クラス連覇を目指したシーズンでしたが、おかげさまでIA1では成田亮(#1)選手がチャンピオン、小方誠(#2)選手が2位を獲得。IA2では富田俊樹(#1)選手が2位、田中雅己(#113)選手が7位にランクインしました。監督代理という大役を仰せつかりましたが、期待された成果を残せた反面、課題も見えてきたシーズンになりました。

終盤の3大会はいずれも天気がよく、ベストコンディションで好レースが繰り広げられましたが、この中でも第7戦名阪、そして第8戦広島は特に意識していました。名阪は成田選手にとっては苦手ではないものの、得意でもないところ。ただ、例年は厳しい暑さが残っているのですが、今年はそれほどでもありませんでした。広島もどちらかと言えば成田選手とは相性が悪く、当地での今季第3戦では小方選手と新井選手がヒート優勝しています。鬼門と言うと大げさですが、この辺をうまく乗りきれば上出来だと思っていました。成田選手のリザルトは、名阪が1位/3位、広島では2位/2位。そつなくまとめて取りこぼしがなかったことが、最終戦まで待たずにタイトルを獲れた勝因だったと思います。

名阪では、成田選手から鎖骨が折れていることを事前に聞かされていました。夏休みにアメリカで行ったトレーニング中に転倒して、以前骨折した部分を再度傷めてしまったのです。帰国後最初の診断では異常がなかったのですが、2軒目の病院で鎖骨が折れていたことが判明しました。チームとしては大事を取って休ませることも考えましたが、名阪の翌週に控えていたモトクロス・オブ・ネイションズのラトビア大会も含めて大丈夫だと言うので、最終的には本人の判断を尊重しました。

心配をかけたくないという成田選手の気持ちを汲んで、チームスタッフには骨折について内緒にしていました。ただ、トレーナーにだけは事情を打ち明け、状態が悪化した場合に備えて応急処置などの用意を整えておきました。シーズンが終了した今になってみれば、名阪1戦を欠場してもタイトルは獲得できていましたが、その時点ではランキング2位の小方選手に逆転される点差だったので、負傷を押してでも出場するという判断は間違いではありませんでした。成田選手の走りは、少しでもポイントを拾うというようなレベルではなく、普段と変わらない強さでヒート優勝を果たしました。常人には理解できない領域があるとしか言いようがありません。

第8戦広島では、両ヒートを勝てばチャンピオンが決まる状況だったので、成田選手本人はピンピン(両ヒート優勝)を獲る意気込みで臨みました。チームとしては、無理に広島で決めなくてもいい、最終戦まで持ち越してもいいというスタンスでした。ヒート1終了時点で、ランキング3位以下のライダーにチャンピオンの可能性がなくなり、対象が成田選手と小方選手に絞られたことを本人たちにも伝えました。言い換えればTeam HRCのチャンピオンが確定したわけで、ここで少しリラックスできたようです。ヒート2で成田選手の3連覇、そして前人未踏のV10を達成したのですが、最終戦を残してのタイトル決定は、Team HRC在籍3年目で初めてのことでした。

成田選手は歳を重ねるごとに後ろとの差が開いているし、本人がなにをすべきかを知っているので、それを確実にこなすためのサポートをしました。9戦しかないシリーズですが、彼ほどポイントをそろえた人がいなかった。成田選手は当たり前のことをきちんとやりました。シーズンオフにトレーニングとテストをやって、シーズン中は調整モードに移行し、夏のインターバルにはアメリカに渡ってもう一度追い込んだ。自分で環境を作ってスタミナを追加したのです。

タイトルを争ったのは同じチームの小方選手でしたが、終盤戦に限っては一度も成田選手の前を走れなかったのが敗因です。前半の流れを終盤戦までキープしていたポイントリーダーに対し、小方選手は名阪からリズムを崩してしまった。客観的に見ると、名阪と広島ではスタートで出遅れたことが一番の要因です。さらに悪い癖があって、スピードがあるのに前のライダーのペースにはまると攻略に手間取り、そのうちに後ろから来たライダーに抜かれるパターンに陥ってしまった。小方選手は体調もよかったし、マシンの仕様が大きく変わったわけでもないので、乗れているときの走りを維持できるようにサポート態勢などを強化したいと考えています。小方選手が第3戦広島ヒート1で優勝したときなどは、10番手からの追い上げが冴えていたので、スタートの悪さだけが要因ではないようです。

IA2を振り返ってみると、ディフェンディングチャンピオンの富田選手が2位にとどまったのは、第4戦菅生のヒート1における19位が大きく響いたからだと思います。マディに強い富田選手が、トップを走りながらスタックで後退してしまった。結果論ですが、あそこで普通に1位か2位に入っていたら、今年もチャンピオンになれていた計算です。ヒート2では優勝していますし、ヒート1でのスタックが痛かったですね。

ただ、その後の成長ぶりには目を見張るものがあり、第6戦菅生以降は首位の勝谷選手と富田選手が全く互角でした。富田選手は中盤戦以降、こちらが提示した課題をすべて実行してきたので、それがドライでの優勝につながったと思います。課題とは公式練習でタイムアタックして勝谷選手にプレッシャーをかけたり、コーナリングスピードを上げる取り組みであったり、それらをすべて消化して成長したと思います。

第7戦名阪では富田選手が1位/1位、勝谷選手が2位/2位だったのですが、富田選手が明らかに速いと見ると、勝谷選手は無理をしないモードに切り換えました。チャンピオンの獲り方を知っているベテランにそういう走り方をされると、こちらはきついなと感じました。クレバーに2位狙いの走りをされたら、20ポイント差を詰めていくのは難しそうだと思いました。富田選手が勝っても勝谷選手が2位、勝谷選手が勝っても富田選手が2位という接戦が続きましたが、2人の間に割って入れるライダーがいなかったので、5ポイント、7ポイントという劇的な点差を計算できなかった。もっと接戦だったら、勝谷選手もミスしてくれたかもしれません。

田中選手は中盤戦以降、随所で本来の走りをみせながら表彰台に返り咲いてくれました。ただ、ヒート1がよくてもヒート2でパフォーマンスが落ちる傾向があったので、ピークをレースに持ってくるように調整を心掛けました。もともとフィジカル能力は高いのですが、後半で踏ん張りが利かないところがあって、ライン選びにも影響が出ていました。チームとしては、シーズン前半のうちにリズムに乗せてあげられなかったことが残念です。

ハード的には、シーズンを通して、CRF250RWのエンジン性能にテコ入れをしました。具体的にはヘッド周りのリファインによって、高回転域のパワーアップを果たしました。中盤戦以降は富田選手のドライでの優勝、ピンピン、田中選手の表彰台などに貢献できたと思います。CRF450RWにはあまり大きな変更がありません。排気の仕様が少し変わった程度でしょうか。

監督代理1年目の今シーズンは、「ライダーにもっと速くなってもらうにはどうしたらいいのか」というテーマに取り組んできました。さらに自分がライダーだったときに必要だと感じていたこと、改善できたらと思っていたことなどを実施しました。たとえば、積極的に雨仕様のテストを行ったことなどは、かなり有効だったと思います。

そして、ライダーの立場になってアドバイスしたことが、うまく結果につながったときはうれしかったですね。たとえばライン取り。一例として広島を挙げるならば、ラムソンから先の裏や世羅の飛び出す前のライン取りを私が担当していたんですが、無線でメカニックにトスしたアドバイスが伝わった直後にタイムが上がったり、差が広がったりするのはうれしかったです。ただし、レース後に「監督のラインのおかげです」と言われたわけでもないので、勝手な思い込みかもしれません。

自分がライダーだったときは、コースの中でどこかしら自信のないセクションがあったんです。このコーナーは絶対にこう走る、あそこのフープスはこのラインが速いというように自信が持てるところもあるのですが、あそこのコーナーだけはインなのかアウトなのか、どう走ればいいのかさっぱり分からない……ということがありました。今のライダーたちには、そんな迷いを払拭するために区間タイムを測ったり、ビデオを見ながらアドバイスをしたりと、コミュニケーションをとっています。ああしろこうしろというアドバイスも結構ですが、そのままでいいよと言われるだけでも迷いがなくなるものなのです。だから、レース前にはいつも奥の方に行って、ライダーがタイムを出せなかったセクションを下見するなど、情報収集をしていました。

今後の課題ですが、両クラスのタイトル獲得を目指すのはもちろん、ライダーのレベルアップを図っていきたいと思っています。富田選手は昨年のチャンピオンですが、今年は勝谷選手という強敵が現れたおかげでスピードに磨きがかかり、一回り大きく成長してくれました。ランキング2位という結果は悔しいですけれど、ライダーがレベルアップするのを実感できたことは、なによりでした。来年はもっと強くなりたい。そのためには、国内の9戦だけでは足りません。国内で現状が限界だとしたら、やっぱり海外に出て行ってレースに参戦する機会を増やす必要があります。いろいろデータを取ってみると、実戦走行以上に負荷がかかるトレーニングはないんです。ウエイトトレーニングはいくらでも重たくできますが、心肺機能を鍛えようとしてもレースでかかる負荷を再現できるトレーニングがないんです。レース数を増やすしかないというのが結論で、AMAナショナルや世界選手権へのスポット参戦も含め、海外のレースに挑戦する機会を増やせるように、バックアップ態勢を作りたいと考えています。