モータースポーツ > 全日本モトクロス選手権 > 全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート > vol.15 東北シリーズを終えて

全日本モトクロス2014 Team HRC現場レポート

HRC
HRC
vol.15 東北シリーズを終えて

東北シリーズを終えて

全9戦からなる全日本モトクロス選手権は、3分の2を消化しました。今季のカレンダーでは中盤に第4戦菅生(スポーツランドSUGO)、第5戦藤沢(藤沢スポーツランド)、第6戦菅生と続く東北シリーズがあり、大きな山場となりました。今回は、Team HRCの芹沢直樹監督代理にこの3戦を振り返っていただきます。

非常に厳しいコンディションの中で、チームの総合力が問われた3連戦でした。第4戦菅生と第5戦藤沢は雨で、トップライダーでもスタックするほどのマディコンディション……。そして第6戦菅生は快晴でしたが、猛暑との闘いになりました。IA1クラスでは成田亮(#1)選手が暫定ランキング首位、小方誠(#2)選手が2位。IA2では富田俊樹(#1)選手が2位、田中雅己(#113)選手が9位という現状です。

真夏に開催される第5戦藤沢と第6戦菅生が山場だということは、以前からミーティングでも話していて、チーム全員が意識を一つにしていました。暑さ対策としては、アイスベストを用意したり、ガソリンの温度が上がりすぎないよう保管場所に気を配ったりしていました。フィジカル面では7月上旬に体力測定を行って、個人差に合わせた調整法をウイダーさんに指導していただきました。例えば血液検査で疲労度が分かるので、練習しすぎているようなライダーに対しては、体力を維持しながら身体を休められるようにトレーニングの負荷を変えたり、レースまでのコンディショニングメニューを個別に設定したりしました。ちなみに測定結果は成田選手と小方選手が元気で、富田選手と田中選手が少々疲れ気味という、年齢とは逆の結果が出ました。

成田選手は夏場勝負ということを強く意識していて、練習と暑さ対策などを準備してきたので、その結果をきっちり出せたのだと思います。東北の6ヒート中、優勝×4回、2位×2回です。マディの菅生では珍しく転んだんですが、スタックするようなことはなく落ち着いていました。本人に言わせれば「なんでみんなスタックしているのか分からない」とのことですが、あの過酷な状況で優勝、悪くても2位という成績はさすがです。大敵は慌てたり、それが元でケガをしてしまったりすることですが、成田選手は常に落ち着いていました。

この3戦のうち成田選手が2位だったレースでは小方選手が優勝しているので、チームとしては勝率10割です。ただし、小方選手は表彰台を逃すことがあるので、欲を言えば成田選手が優勝するときは必ず2位に入るぐらいの強さが欲しい。小方選手の3戦を振り返ると、優勝/5位、6位/優勝、3位/4位。もともと雨が得意のライダーですし、コンディションが悪化しても心配はしていませんでした。小方選手が勝ったレースはすべて熱田孝高選手(スズキ)が相手でしたが、抜かれても落ち着いて抜き返せるようになりました。以前は同じラインばかり通る悪い癖があったんですが、相手を冷静に観察しながらラインを変えて揺さぶることができるようになりました。その半面、1レースで3回も転倒したり、ちょっと波があるので、そこをなんとか克服できるように取り組みたいと考えています。

IA2に関しては、富田選手が雨の菅生と藤沢で1勝ずつを挙げ、マディでの強さを見せてくれました。19位/優勝、優勝/4位、2位/2位という結果に表れているように、ドライの菅生でも安定した成績を残せました。痛かったのは第4戦菅生ヒート1で、トップを走っていたのにスタックしてしまった結果19位。現在ポイントリーダーの勝谷武史選手とは26点差の富田選手ですが、ここでもう少し上位に入っていたら1桁のビハインドだったかもしれません。ヒート1が終わった時点では、富田選手を勝たせるために「雨乞いしようか」などと冗談を言っていたことを後悔しましたが、ヒート2ではしっかり勝てたのでよかったです。冷静にチャンピオンらしい走りをしてくれました。

第5戦藤沢も雨でしたが、土曜日はまだそれほどひどいマディではなかったので、作戦通り公式練習からタイムを出して勝谷選手にプレッシャーを与えていこうと打ち合わせていました。富田選手は思惑通りトップタイムを出してくれて、ヒート1では優勝。ヒート2では竹中純矢選手(スズキ)には負けましたが、勝谷選手の連勝を止めるレースが続きました。雨は大きな要因ではありましたが、なにかきっかけがあれば流れを変えられる手応えを感じたレースでした。第6戦菅生でも練習からプレッシャーを与えていこうと臨んだ富田選手は、土曜の練習ではトップタイムを出しました。予選では2組あるうちの片方が富田選手、もう一方が勝谷選手というパターン。いい流れではあったんですが、決勝では勝谷選手の強さが出ました。ただ、広島で完敗したときほどぶっちぎられてはいないので、差は着実に詰まってきていると感じています。

田中選手については成績が出せないレースが続いたことで、気分的に落ち込んでいた面もあったようですが、第6戦菅生ヒート1で今季初めて3位の表彰台をゲットしました。これをきっかけにスランプを脱出してくれるだろうと信じています。これまでも毎戦取り組んできたことですが、不調の原因を深掘りしてハードとソフトの両面からアプローチしました。ハード的には、今回から足廻りの仕様を変えました。田中選手の希望通りにアメリカ合宿で走り込んだ仕様を採用したのですが、性能だけでなく気持ちの面も大きかったのでしょう。チームとしても、もっと早く仕様変更を決断するべきだったかもしれません。

ソフト面では、目標としてレースの順位以外に、トップタイムも狙ってみようと取り組んできました。走行機会は1戦で5回あります。公式練習、予選、公式練習、決勝ヒート1、決勝ヒート2、どれでもいいからタイムで1番になってみようとトライしました。これまでの田中選手はタイムを出すタイプではなかったのですが、こうして目標設定を明確にすることで、事前テストからタイムにこだわる走りをするようになりました。その結果、ドライの菅生では、久しぶりにトップが見えるポジションで田中選手らしいレースができました。ようやくエンジン始動という感じです。ひとまず3位でしたが、優勝できる力があるライダーだし、次は地元で得意の名阪なので勝って復活してくれると信じています。

田中選手はスランプもありましたが、苦手のマディに足を引っ張られたことも大きかったようです。なんとかその点を支援したいという思いもあって、今年はチームが一丸となって雨対策をやるようになりました。一例としては、雨用の吸気経路を用意して、テストをしておきました。通常のドライ仕様では吸気効率を追求するので泥も水も入りやすくなりますが、その混入を極力防いだのが雨仕様です。パワーは少し犠牲になりますが、大幅なダウンではないですし、PGM-FIセッティングの面でもベースのもので問題ないことが確認できていました。

また、事前テストでいろいろな雨用シートを試して、降ったらこれだという仕様をライダーごとに決めておきました。普通は雨用シートのテストなどはプライオリティーが低いのですが、表面のリブやギザギザの付け方にライダーの好みもいろいろあるので、事前に試すことができてよかったです。本番でギャンブルするのと事前テストで実証済みなのとは、大きな違いですから。雨用のマッドグリップについては、アフターマーケットで見つけたパーツで、晴天下のテストでしたが、泥を付けて乗ってみたりした結果、全員が採用しました。

全日本ではマディになることが多いですし、雨用のテストの必要性はずっと以前から感じていたんです。少なくとも私が現役ライダーだったころは、雨用のテストなどやったことがありませんでした。ディスクをレイン用に交換するとか、グリップに割り箸を付けるとか、レースの現場ではそういう対処をしてきましたが、積極的に雨を想定したテストを行うことは皆無でした。

実はそこが意外と盲点なんです。レース時のマディコンディションは、完ぺきに再現できるものではありません。テスト日程はあらかじめ決まっているので、晴れるか雨が降るか分からない。もしマディになってもテストは決行しますが、今年の第4戦菅生や第5戦藤沢のようなスーパーマディにはなりません。走行時間も台数も違いますし、Team HRCの4人でいくら走っても、あんなにワダチだらけにはならないからです。それでもあの過酷なコンディションに落ち着いて対処できたのは、雨を想定して準備をしてきたからだと思います。

さて、終盤戦の展望ですが、IA1では37点リードしている成田選手が有利であることは間違いありません。残り3戦6ヒートですから、成田選手は1ヒートにつき6点ずつアドバンテージを持っています。小方選手が37点を逆転するには、全勝した上で成田選手が毎レース4位以下という計算になりますが、あまり考えられないケースです。ただ、昨年のように成田選手がどん底から逆転して、しかも1点差でチャンピオンを獲った例もあるので、大量リードがあるからといって油断は禁物です。

成田選手と話しているのは、2位の小方選手に対してどうこうではなくて、過去の自分と戦おうというテーマです。成田選手が高得点を獲得したのは、2011年の462点、2007年の449点、2004年の448点。いずれもチャンピオンを獲ったシーズンですが、このトータルポイントを年間10戦(当時)で割ったものを毎戦の目標に設定しています。46.2点を超えるには47点ですから、優勝/2位です。44.9点を上回るには45点ですから、優勝/3位です。最終戦のボーナスポイントを考えるともっと複雑になりますが、要するに後ろとの差を見ながら安全運転するのではなく、上を目指していこうということです。

もちろん小方選手にも同じような話をしています。過去のチャンピオンの例から、毎戦47点という目標を設定し実現してみようと……。先ほど言ったように、47点というと優勝/2位ですから、非常に高い目標設定です。ただ、小方選手にとって不可能な順位でもないので、とにかく目指してみようと話し合っています。点差が開いてしまったので、ポイント計算ではなく勝利数にこだわっていこう。それが小方選手のテーマです。

IA2は首位の勝谷選手に対して富田選手は26点のビハインドですが、とにかく前を走ろうと話し合っています。仮に富田選手が残り6ヒートを全勝しても、勝谷選手が2位をキープすれば逆転できませんが、3位以下になれば十分可能です。シリーズ終盤にはどんなハプニングが待ち受けているのか分かりませんし、可能性を信じて両クラス制覇を目指していきます。

<< INDEX
  • 成田亮、小方誠
  • 成田亮、小方誠
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 小方誠
  • 富田俊樹
  • 富田俊樹
  • 田中雅己
  • 田中雅己
  • 田中雅己
  • 田中雅己
  • マッドグリップ
  • 成田亮
  • 富田俊樹
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 小方誠
  • 富田俊樹