Team HRC現場レポート

Vol.51

シーズン序盤での各ライダーの戦いぶりを、芹沢監督が振り返る

全日本モトクロス第4戦(5月27日・広島・世羅グリーンパーク弘楽園)において、Team HRCはIA1、IA2の両クラスでトップチェッカーを受け、ヒート優勝を飾りました。成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1総合2位(優勝/2位)、山本鯨選手(#1・CRF450RW)=IA1総合3位(3位/3位)、能塚智寛選手(#828・CRF250RW)=IA2総合8位(優勝/DNF)と、それぞれ好成績を残した第4戦。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢勝樹監督に戦果を分析していただきます。

芹沢勝樹監督

今シーズンは全部で9戦ですから、3分の1を消化して中盤の山場に差しかかったところです。ここまでの戦況を振り返ると、IA1では成田が6ヒート中4勝を挙げてランキング首位。本当は開幕から山本と成田が優勝を分け合うぐらいの勢いでいきたかったのですが、山本は未だ勝っていないので、ちょっと出遅れていることは確かです。IA2の能塚は6ヒート中2勝ですが、2月から乗り始めてまだ3カ月ですから上出来だと思います。当初は開幕から第3戦までは無理をせず、レース感覚を取り戻しながら徐々に上位に入り、第4戦広島から勝ち始めようというプランでした。

Team HRCにとっての広島は、アウェイで非常に難しいラウンドです。昨年はカワサキの小方選手がピンピンで勝っていますし、今年は同じ轍を踏まないよう周到に準備しました。弘楽園の難しさは、特殊なハードパック路面にあります。昔の桶川(旧SP埼玉/HARP)のように、乾くとコンクリートのようになる「カチパン」で、ラインが固定してくるとブラックマークが付くところがあるほどです。その硬質路面に対し、マシンをどのようにセッティングするか。事前テストでは、タイヤ選びとサスペンションの調整に注力しました。性能的にはトラクションの追求が第一のように思われますが、アプローチとしてはまず乗り心地を重視します。それが実現できれば、結果としてトラクションも向上するからです。

足周りは新しいものではなく、開幕からできあがっている仕様を継続し、アジャストの範囲内で答えが出ました。成田と能塚は早々とセッティングが決まったので、走り込みに集中することができました。山本は合わせ込むのに時間がかかりましたが、決して迷いではありません。もともと事前テストでは、慣熟走行よりもセッティングにこだわるタイプだからです。乗り込みはどこでもできるので、コース攻略よりもマシンを自分の好みに合わせる作業に時間を割きます。成田と能塚が事前練習なら、山本は事前テストというイメージです。

エンジンに関しては、もともと十分なパワーが出ているので特に変更はなし。滑りやすいハードパック路面への対策も、全く必要ありませんでした。例えば成田は、ガバッと開けてフルパワーを身体でトラクションさせるタイプですし、あまりハードウエアで小細工しない方が好結果につながるので、一度決めたセッティングを維持します。

弘楽園のコースは、昨年のリニューアル時にできたセクションが「エキサイトバイクみたい」だとか「昭和のジャパン・スーパークロス」などと話題になりましたが、今大会では手直しされました。尖った8連ジャンプが滑らかな6連になり、ウォッシュボードがあったところはテーブルトップ2個に変わりました。全体的に角が取れて難易度が下がったことで、差が出にくいコースレイアウトになったわけですが、そうなるとスタートの成否が重要なポイントになりました。

事前テストでは小方選手が速かったので、本番でも手強い相手になるだろうと思っていました。メンテされていないカチパンにパウダーが浮いたような状況でも、撒水直後のウエットコンディションでも小方選手は乗れていて、成田よりタイムがいいことが結構あったからです。新井宏彰選手(カワサキ)ももちろんですが、星野優位(ヤマハ)選手もマークしていました。タイムアタック予選では、小方=1分48秒234、岡野=1分49秒845、新井=1分49秒933、山本=1分49秒979、成田=1分50秒220という結果になりましたが、驚きではありませんでした。

ヒート1は田中雅己選手がホールショットを決め、成田と山本が2~3番手だったんですが、出遅れた小方選手が追い付いてきて、終盤にトップの成田と入れ替わりました。ラインがいいから観察するように無線で指示を出したんですが、それが逆転につながったかどうか…。少なくともあきらめずに付いて行ったことにより、運を引き寄せたのは確かでしょう。最終ラップで小方選手に競り勝って、成田がヒート優勝をもぎ取ったのです。

勝負どころとなったのは、KYBダウンヒルの前にある下りと登りでした。ライダーたちの間では「ユナディラセクション」と名付けたんですが、古くからエレベーターシャフトとか、スクリューユー(Screw-U)と呼ばれてきた、AMAナショナルの名所にそっくりな谷底セクションです。最終ラップではこの手前の右コーナーで周回遅れが転倒したため、小方選手がインベタから下るベストラインを通れず、登りでの加速が鈍ったことで成田が逆転に成功しました。

ユナディラセクションの登りは、左側の平らなところを登って、頂点で切り返して真っ直ぐに飛ぶ小方選手が速かったです。成田は右から登ってインをかすめるラインでしたが、スクラブする前に向きを変えるので少し減速する瞬間があったんです。山本は真ん中のラインで、あまり差が詰まる感じではありませんでした。

山本は終盤になってペースが落ち、単独3位となりましたが、開幕から悩まされている腕アガリではなく、暑さもあったので少し疲れたようです。Team HRCでは夏場の対策として、さまざまな対応をしています。

ヒート2では序盤から山本と成田が1-2で、何度も順位を入れ換えるトップ争いになりました。2人のバトルはエキサイティングでしたが、後ろに小方選手がいたので共倒れにならなければいいが…という思いでハラハラしていました。小方選手に先行されてからは、成田にヒート1のような逆転を期待していたんですが、小方選手がよりトラクションのいいラインに変えてきたので、攻略はなりませんでした。

成田は総合表彰2位(1位/2位)でしたが、優勝した小方選手(2位/1位)と同ポイントを獲得。昨年ピンピンを取られたことを思えば、片方はモノにしたので一歩前進したと言えるでしょう。山本は3位/3位でしたが、トップ争いもできたし、いいライディングでした。価値ある3位だったと思います。ここでカワサキ勢に1-2を取られたりすると、なんとなく嫌な雰囲気になるところでした。今年は広島が2戦あるので、2戦目に対して自信を深め、アウェイ意識を払拭するリザルトになりました。

IA2クラスのヒート1では、能塚がスタート・トゥ・フィニッシュを見せてくれました。このところ序盤でペースアップできないことが課題で、1周目からベストラップを出すような走りができるように練習してきたんです。予選のときから手応えもありましたし、その通りの展開になりました。無理しない時期は過ぎたので、今は100%でゴーサインです。ヒート2ではスタート失敗と転倒で、後方から追い上げるレースになりましたが、7周目のユナディラセクションでハイサイド。足を痛めたのでリタイアしました。1回目の転倒の影響でフロントディスクも曲がっていたようです。ポイントランキングでは、古賀太基選手に31点リードを許すことになりましたが、あまり心配はしていません。

数値目標としてIA1のタイムに勝つことを掲げてきましたが、今回のヒート1のベストラップで比較すれば、成田=1分52秒822、能塚=1分52秒485と、健闘しています。来年はWGP(モトクロス世界選手権:現MXGP)にカムバックしてもらう逸材なので、全日本で後ろを見ながら勝てばOKというレースではなく、能塚にはもっと先を目指して何十秒でもぶっちぎって欲しいのです。

モータースポーツ >  全日本モトクロス選手権 >  全日本モトクロス2018 Team HRC現場レポート >  Vol.51 シーズン序盤での各ライダーの戦いぶりを、芹沢監督が振り返る