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Team HRC現場レポート

Vol.50

熱田孝高アドバイザーが語る、ライダーの育て方

全日本モトクロス第3戦(5月13日・菅生・スポーツランドSUGO)において、Team HRCは両クラスで表彰台のセンターポジションに立ちました。成田亮選手(#982・CRF450RW)=IA1総合優勝(2位/1位)、山本鯨選手(#1・CRF450RW)=IA1総合3位(3位/3位)、能塚智寛選手(#828・CRF250RW)=IA2総合優勝(2位/1位)。好成績を収めたライダーの傍らには、熱田孝高アドバイザーの姿がありました。Team HRCの取り組みをお伝えする現場レポート。今回のテーマは、熱田流コーチングです。

熱田孝高アドバイザー

引退後はスズキのアドバイザーになり、今年からTeam HRCに帰ってきました。3人のライダーとは、レースや事前テストの日はもちろん、個別の練習に付き合うこともあるので、かなり忙しい毎日です。今大会への準備としては、ゴールデンウイークに東北合宿を行いました。4月30日に三沢(青森)、5月1日に花平(岩手)、5月2日に古川(宮城)というスケジュールで、成田と能塚と3日間走り込みました。山本は手首をケガしていたので、できるだけ回復を待つため合宿参加は見送り、5月5日~6日に菅生で集中的に練習しました。

肩書きはアドバイザーですが、僕も一緒に走るので、練習相手と言った方がいいかもしれません。でも1日30分×4ヒートなんて、全ラップは付き合いきれません。中盤の3周とか最後の3周とか、要所要所でコースインして後ろからプレッシャーをかけるのが僕の役割なんです。見ていてペースが落ちてきたり、集中力が下がってきていたら、活を入れます。成田は落ちないけど、能塚はすぐタレるので、そういうときはすかさず入って、後ろからプレッシャーを与えてます。僕のマシンはワークスマシンではなく通常の量産ベース車ですが、3周なら付いていけますよ。

三沢と花平は、何回か走ったことがあるという程度。古川は僕のホームコースなんですが、能塚に3秒差で負けました。ぶっちぎられて単独走行になったので、自分がなんのために走っているのか、疑問を感じて止めたほどです。初めて走るのに能塚が速くて、なぜかって聞いてみたら、「こういう小さなコースが得意なんです」ということでした。能塚はコースを覚えるまでは遅いんですが、ハマると成田よりも速いことがあるんです。

リニューアルされた菅生のコースは、事前テストでも走っているので特に問題はなかったんですが、大坂を登った先がブラインドになっているので、気を付けるようにアドバイスしました。登りきってから右に曲らず、少し右に振って左に切り返す逆バンクのようなレイアウトになったんですが、わだちができていい感じの路面になりました。

コース改修のテーマとしては、競り合いを演出する狙いがあったようです。例えばコーナーのアウト側にはバンク、イン側にはコブが作られていました。大きなコブはもっと飛んだ方がいいんじゃないかと思いましたが、なめてタイトに回るライダーが多かったようです。能塚などはインだとリズムに乗れていなかったので、ずっとアウト~アウトで行けと指示していました。バンクがきれいなところでは、スムーズで速かったですね。結構インとアウトに別れる多様性がありましたが、ライダーは「抜くところがない」と言う。スネークの方は1本ラインというよりは、狭くて抜きにくいという感じ。ラインチョイスはあるけれど、抜けるラインにはなっていないようでした。

前の週の木曜日あたりまで雨だったので、土曜日にはちょうどいい感じのわだちができて、それをあまりいじらなかったのがよかった。土質はいつもの菅生ですが、含水量が少し多めでした。もう少し多くなると荒れてギャップが増えるんですが、突っ込みのブレーキングバンプ以外は結構スムーズな路面でしたね。土曜日にコース整備をしなかったので、わだちが深いまま残りましたが、底は意外ときれいでした。

成田とライン取りの相談をしたときに、コース形状に沿った通常のレギュラーラインが荒れてきた場合、コースを横断するようなクロスラインも用意しておいた方がいいとアドバイスしたんですが、結果としてレギュラーの方がよかった。例えば、スネークを下った先の右ヘアピン。土曜日の予選でもヒート1でも、アウト側からインに切り返してわだちを跨いだり、クロスラインを試して「荒れてきたら使えるね」と話していたんですが、インベタにできたわだちが意外ときれいなままだったので、途中からレギュラーに戻しました。ヒート1は修正するのが遅かったので、小方選手(カワサキ)に逃げられましたが、ヒート2では最初からレギュラーラインで走ったことが勝因になったと思います。

今年から予選方式をまたタイムアタックでやるようになりましたが、成田も山本も負けず嫌いなので、本人の意向に任せています。僕がWGP(モトクロス世界選手権:現MXGP)に参戦していたころは、いくら攻めても28番辺りのタイムだったので、全く気にしていませんでした。ここでがんばっても勝てるわけじゃないから、気持ちを切り替えてレースで前に出ればいいやって。実際ゲートピックが悪くても、ホールショットを取ったことがあるし、リザルトでも5位や6位に入ってましたからね。だから成田に対しては「体力を温存した方がいいんじゃないの」と言ったんですが、今回の菅生でも予選では4番手だったのに、日曜日朝のプラクティスでトップタイムを出してきたんです。乗れているからこそ、そこまでどん欲になれるんでしょうね。

対照的なのが山本で、開幕以来ちょっとイライラしていましたが、セッティングの迷いも腕アガリもメンタルから来ているんですよ。自分の理想のライディング哲学があって、それができないフラストレーションを溜め込んでいるだけなんです。開幕戦のときは入り込みすぎていたんで、もっと気楽に行こうってアドバイスしたんですけど、怖い顔して「大丈夫です、ゾーンに入ってます」なんて言うから、こりゃだめだって感じでした。いい走りをしているので、噛み合うまでもう少し。菅生では笑顔も見られるようになったでしょう。答えを見つけたというか、吹っきれてきたんだと思います。

HSR九州には事前テスト以外に、山本の個人練習にも行きました。仙台から大阪に飛んで、大阪から熊本まで山本の車で往復18時間走りました。運転を交代しながら、ずっと話をしました。腕アガリのこと、マシンセッティングのこと。トークで山本のメンタルを解きほぐすのが目的でした。実は僕自身、コーチングのセミナーを受けたりしているんですよ。その教えによると、基本はまず選手の話をよく聞けということなので、山本の話を聞くことから始めています。僕はかなり適当なキャラだと思われているかもしれませんが、ちゃんと我慢して聞いてます。「うんうん、そうだよ。お前の言う通りだよ。でもね…」という感じです。

例えば、オールマイティーで全部に合うセッティングなんて、あるわけないじゃないですか。どこかのコースの1カ所で、マシンがこういう動きをする。それを突き詰めることはできるけど、コースの全セクションで100%満足できるセッティングなんてありえません。僕はなんでも乗れちゃうタイプなので、山本とは正反対かもしれませんが、MXGPに行ったらそんなもん妥協してなんとかやっていくしかないんです。サスが硬い? 自分で吸収しなさい。タイヤが滑る? 滑らないラインを通るか、滑らせる走り方をすればいい。そういうことを山本はMXGPで学んできたはずなんですが、やっぱりファクトリーで全日本を走ると、贅沢になるんじゃないでしょうか。僕にも同じ経験があるので分かります。

能塚は僕そっくりで、なんとかなるだろうO型人間。楽天的なので心配していませんが、緊張感が全くないので、逆に「もう少しプレッシャー感じてみろよ」ってしごいてます。目標はチャンピオンを獲ることじゃなくて、来年からまたMXGPにカムバックすることだから、考え方も世界基準にさせていかないといけません。フィジカルコンディションは上がってきていて、1週間単位で向上しているのが分かります。昨年のアルゼンチンGPで首をケガして1年休んでいたことを考えると、乗り始めからの回復が早いと思います。

今は成田が絶好調ですが、第3戦までやってきて山本に復調の兆しが見えます。速さはあるんだから、歯車が噛み合ったら連勝しちゃいますよ。チームメート同士による優勝争いが楽しみですが、アドバイザーもメンタルタフネスが求められそうです。