VOl.41 硬質路面とチャレンジングなフープスを持つ弘楽園
リスクを取った山本と回避した成田

全日本モトクロス2017 Team HRC現場レポート

全日本モトクロス選手権第3戦(5月21日・広島・世羅グリーンパーク弘楽園)は、Team HRCにとっては最もアウェイな大会でしたが、IA1では山本鯨選手(#400・CRF450RW)が総合2位(4位/2位)、成田亮選手(#1・CRF450RW)が総合4位(2位/5位)に入賞しました。またIA2クラスには、勝谷武史選手(#888・CRF250RW)がスポット参戦し、見事パーフェクトウイン(優勝/優勝)を果たしました。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢勝樹監督に両クラスを振り返っていただきます。

芹沢勝樹監督

我々にとっての広島は、鬼門という位置付けのラウンドです。もともとカワサキに地の利があり、昨年はヤマハが勝っています。Team HRCの勝率としては比較的低いところなので、ここに限ったことではありませんが、事前テストの段階からしっかりと準備をして臨みました。

弘楽園の難しさとしては、まず時間が進むにつれてどんどん硬くなる路面が挙げられます。いわゆる“カチパン”というハードパックで、乾いていても撒水しても滑りやすくて、特殊なコンディションです。これほどの硬質路面は、MXGPのコースにもAMAナショナルのコースにも皆無です。コンクリートのような路面にタイヤのブラックマークが付くところは、スーパークロスのラスベガスや昔のダラスに近い。もちろんその辺のデータは共有していますが、そのまま広島に適用できるわけではないので、参考にしている程度です。

サスペンションは広島に特化したセッティングに注力しました。具体的には硬質路面でトラクションを得るための作動性や路面追従性、そしてハイスピードで大きなジャンプをした際の、着地における安定性とタフネス。その辺りを入念に合わせ込みました。

トラクションを得るには、サスと同時にタイヤ選択が重要になりますが、グリップの追求もさることながら耐久性も両立させた仕様をテストして絞り込みました。一言で言うと適度なしなりと剛性を兼ね備えた、コンパウンドおよび強度ということでしょうか。

エンジンに関しては特に変更することはありませんでしたが、出力特性のよさは今大会のスタートでも実証されました。IA1のヒート1では2人とも順調な出足でしたが、ラムソンジャンプを迂回した先のコーナーで、山本がフロントを取られて単独転倒したことが残念でした。成田に関してはライン取りに自由度のあるライダーなので、早めに田中選手を抜いてトップに立てたことは想定内でした。

  • 成田亮(#1)、山本鯨(#400)
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 山本鯨
  • 山本鯨

中盤に差しかかると、成田、新井(宏彰)選手(カワサキ)、小方(誠)選手(カワサキ)、山本という上位陣になりました。成田に対しては、ラインはOKだからこのままいこう、とにかく集中して走るようにと指示を出していました。今回はコースレイアウトがリニューアルされましたが、ポイントとなったのは新設された8連ジャンプとフープスでした。最終的には8連を2-2-2-2で処理していた成田が、3-2-3でクリアする小方選手に逆転されたわけですが、それに尽きると思います。

客観的にそれほど難しいジャンプではないと言う人もいます。IA1ルーキーが3-2-3で飛んでいたことも確かですが、クラッシュして負傷したライダーもいました。ピッチが微妙に狭いので、最初の3個を飛びすぎると4個目に突っ込んだり、結構リバウンドがきつい角度だったりするのでリスキーでした。チャレンジしてできないジャンプではありませんし、実際山本は飛んでいました。ただ監督の立場として常日頃からライダーに伝えているのは、シーズンの最後にトップでいること、チャンピオンを取ることですから、リスクをどうマネージメントするか考えてほしかったのです。

成田の場合はフープスが速かったので、8連を3-2-3で飛んで無理をする必要がなかった。本人ともその点はしっかりと打ち合わせて、飛ばないと決めていました。一方、山本は3-2-3で飛んでいましたが、それは本人が「あそこは問題なく飛べます、飛ばないとだめです」と言うので、意向を尊重しました。山本の場合はその分フープスが攻略できていなかったので、8連ジャンプで勝負するしかない。無理だったら止めるように進言もしましたが、余裕を持って飛べるというので任せました。

小方選手が優勝したのは、8連ジャンプとフープスの両方で速さを兼ね備えていたからです。ウチは成田がフープス、山本が8連ジャンプとストロングポイントが分散していたので、2位でも妥当だったと思います。

弘楽園に新設されたフープスは、スーパークロス的でしたね。ピッチが狭くて、山が高めで、80年代のジャパン・スーパークロスみたいだなって話題になっていました。今回のフープスは、最初に3個飛んで、その後はダダダダっという走り方。80年代のジェフ・ワード型ですね。

MXGPのコースにもフープスはありますが、もっと緩くてウエイブ的なんです。余談になりますが、ティム・ガイザー(2015年MX2チャンピオン、16年MXGPチャンピオン)がMFJ-GPに来た2015年も、菅生のフープスを「あれはちょっと特殊だ」と警戒していました。世界を転戦しているときも、今度のコースにはフープスがあるらしいという情報が入ると「あの菅生みたいなのか?」と敏感に反応します。

ヒート2ではスタートで2番手につけた山本でしたが、8連を3-2-3で飛んでも小方選手の方が速かったですね。撒水で滑りやすくなっていたので慎重になったことと、後ろから抜かれないように意識しすぎたことで、小方選手に逃げられてしまいました。山本の後ろには成田や大塚(豪太)選手(Honda)がいました。

  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 勝谷武史
  • 勝谷武史(#888)
  • 勝谷武史

成田は3番手にいながらペースが上がらず、星野裕選手(カワサキ)、新井選手に先行を許しました。得意にしていたフープスに変な1本ラインができてしまったのと、序盤に田中(雅己)選手(Honda)、深谷(広一)選手(スズキ)と転倒が続発するのを見て、慎重にならざるを得ず、ペースが停滞してしまったようです。

今回は優勝を逃しましたが、結果的にポイントリーダーの座を守っています。成田が1位、山本は2位、ランキング上位を独占しているので上出来でしょう。成田の地元である菅生と藤沢がこのあとに控えていることも、ポジティブに捉えています。

IA2では勝谷が新型マシンのプロトタイプを走らせて、両ヒートを完全制覇しました。アドバイザーの勝谷が出場した経緯は、ニューマシンを開発してきた過程で、そろそろ実戦検証をする段階になったということです。とりあえず広島限定のスポット参戦でした。目的はテストなんですが、開発陣としては性能がトップレベルにあることを確認したかったでしょうし、Team HRCとしても出るからには勝ちたいという気持ちはありました。

ヒート1はスタートで先行を許したものの、ラムソン先から世羅の下りに出てくるまでが圧倒的に速かったので、すぐにポジションアップしてきました。トップの古賀(太基)選手(Honda)はテストで一緒に走るところを見て速いことは分かっていたので、いくら勝谷でも余裕で勝てる相手ではないと警戒していました。結果的に終盤で追い詰めて接戦となったときに、古賀選手が転倒してトップに立てたのですが、終盤は勝谷が押していましたね。

ヒート2はスタートから出てぶっちぎりでしたが、勝谷はアドバイザーでありムードメーカーという面もありますので、チーム内の雰囲気もよかったですね。レースの順番としては、IA2で勝谷が優勝してその後にIA1がスタートするので、切り込み隊長みたいなポジショニングでした。

もちろんアドバイザーという職務もしっかりこなしていて、フィニッシュしたら表彰式が始まる前に成田と山本のところへ行って、コース状況などをトスしていました。危険なところ、使えるライン、それから勝谷が得意としていた世羅の手前のアップダウンの走り方などは、有益な情報になったはずです。直前のレースを走って得た感触ですから、これ以上正確なアドバイスは望めないかもしれませんね。

勝谷の成果はピンピンですから、リザルトとしては最高ですが、収集したデータを検証すれば課題が見つかるかもしれません。それが先々MXGPでも反映され、フィードバックを繰り返すことによって、モトクロッサーの戦闘力が向上していくのです。

 
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