世界最長の歴史と、世界最大の規模を誇るインディアナポリス500(インディ500)で優勝した者は、その顔の彫刻がトロフィーに刻まれる栄誉を与えられます。今年の5月に第101回インディ500で優勝した佐藤琢磨(Andretti Autosport)は、顔の彫刻を作るため、ワトキンス・グレンでのシリーズ第16戦を終えるとすぐに、ノースカロライナ州にいるアーティストの元を訪れました。

世界で最も有名なトロフィーの一つであるボーグウォーナートロフィーは、1936年にインディ500の優勝トロフィーとして登場しました。歴代ウイナーの顔が刻まれたトロフィーというのは世界に2つとない、極めてユニークな、そして価値あるものです。アール・デコ様式のこのトロフィーの高さは、のちに追加された土台も含めて165cmあり、スターリングシルバー製のため、重さは土台を含めて50kgもあります。

これほど大きなトロフィーだけに、ウイナーが自宅に持ち帰ることはできません。トロフィーはインディアナポリス・モーター・スピードウェイの殿堂博物館に常時保管され、一般に公開されています。その代わりウイナーには、“ベビーボーグ”と呼ばれる、同じくスターリングシルバー製のトロフィーが授与されます。ウイナーの顔がボーグウォーナートロフィーに取りつけられたあと、ベビーボーグの大理石の土台にも同じく顔の彫刻が貼りつけられ、それがウイナーに贈られるのです。

佐藤はボーグウォーナートロフィーに刻まれる104番目の顔になります。第101回大会のウイナーなのに101人目ではないのは、2つのレースでドライバー交代が行われ、2人が同年度のウイナーとなっているためと、1945年にインディアナポリス・モーター・スピードウェイを購入して大会消滅の危機から救い、インディ500を世界最大のレースへと再び繁栄させたコースオーナー、トニー・ハルマン氏の顔も刻まれているからです。なおハルマン氏の顔だけは、その偉大なる功績を讃えるため24カラットのゴールドで作られています。佐藤は日本人としてはもちろん初のインディ500優勝者。日本はウイナーを誕生させた12番目の国となりました。

トロフィーの製作者はウィリアム・バーレンズ氏。メジャーリーグベースボールの選手やアメリカの政治家などの彫刻製作でも有名なアーティストです。1990年から、インディ500ウイナーの顔を、ボーグウォーナートロフィーのために作っています。彼はまず、インディ500の翌日に彫像製作用として撮影された写真をもとに、粘土で実物大の顔および頭部を作ります。そして、ウイナーが今回の佐藤のように彼のアトリエを訪問し、細かな部分を作り込みます。その後バーレンズ氏は、“ベビーボーグ”に貼りつける、小サイズの彫刻の製作に取りかかるのですが、小さな顔の製作には、驚くほど緻密な作業を求められます。

佐藤の顔の彫刻は10月中に完成し、インディアナ州インディアナポリスでお披露目される予定になっています。