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GP2 & GP3 Series @HFDP

ART Grand Prix代表 セバスチャン・フィリップが語る
世界に挑む2人の日本人ドライバー

GP2シリーズ2年目の松下信治、初の海外レースとなるGP3に挑戦する福住仁嶺。2人の参戦をサポートするART Grand Prixは、昨年両シリーズでチャンピオンを輩出したトップチームです。そのチーム代表であり、自らマネージャーも務めるセバスチャン・フィリップは、2000年に全日本F3選手権でチャンピオンとなり、その後NSXで全日本GT選手権に参戦した経験のあるトップドライバーでした。そのフィリップが、日本とヨーロッパの違い、現在チャレンジを続ける2人について語ります。

前編:日本とヨーロッパの違い

前編:日本とヨーロッパの違い

――日本とヨーロッパ双方のレースをよく知るあなたから見て、日欧のレースの違いをどのように感じますか?

フィリップ:
「言うまでもなく、まずマシン自体が全く違う。ピレリは非常に特徴のあるタイヤで、これも日本製タイヤとはずいぶん違う。さらに言えばGP2で使われるピレリタイアは、F1で使用されるものに準じたもので、そのこともF1直下のカテゴリーとして、GP2の大きな特徴と言えるだろう。レース自体は、スタート直後の1周目に際立った違いが出ているね。GP2に限らずヨーロッパのレースは、スタート直後のバトルがレースの肝と言っていい。ドライバーたちはここで、なんとかして前に出ようとする。当然、激しいバトルが繰り広げられる。それに比べると日本のレースは非常に紳士的と言うか(笑)、少しでも接触するとすぐにペナルティーが科される。そのせいか、元々のメンタリティなのか、とにかく平穏に序盤が過ぎることが多いと感じる。

それからヨーロッパのレースでは、非常に短い時間で結果を出すことが求められる。GP2では45分間のフリー走行、30分の予選が1回ずつしかない。その後すぐに、レースだ。しかもヨーロッパ内外の全くコース特性の違うサーキットを転戦する。したがってドライバーには臨機応変な適応力、どんな状況でも結果を出す力が求められる。先ほどは特徴的と言ったが、ピレリタイアはすぐにタレるから、その短い時間でいかにタイヤを持たせるかも把握しないといけない。日本からいきなり来て、それに適応するのは至難の業だよ。それだけに、ノブ(松下信治)とニレイ(福住仁嶺)は大したものだと思うな。日本だったら何周でも続けてアタックできた。ピレリタイアではそれは無理だから、実際の周回数はさらに制限される。その中でいかに、マシンやタイヤからベストを引き出すか。それをできるドライバーだけが、結果を出せる世界なんだ」

前編:日本とヨーロッパの違い 前編:日本とヨーロッパの違い

――その違いこそが、まさにGP2の魅力でもあるわけですね?

フィリップ:
「そう思う。どちらが良い悪いじゃなくて、レース哲学の違いでもあるだろう。日本は最初から最後まで、全開で攻め続ける。ヨーロッパはタイヤを持たせながら最速を探る」

――週末の各セッションは時間的に制限されていますが、ヨーロッパではレース数は多いし、あらゆる種類のサーキットを走りますね。

フィリップ:
「それも日本のレースとの、大きな違いだ。テストも含めれば、若いドライバーの年間周回数は、日欧でものすごく違うんじゃないかな。タイヤスペックも4種類あって、それぞれに合わせたドライビングが要求される。もちろん日本だって、たとえば鈴鹿のようにものすごく難易度の高いコースもある。でも絶対的な種類が少ないと思う。

だから、いきなりGP2やGP3に参戦する日本人ドライバーが、いろいろなことに面食らうのも無理はない。サーキット、タイヤ、言語、レースの仕方、メンタリティ、すべてが違うんだから。レース週末の過ごし方も、ずいぶん違う。少なくとも僕は日本にいたころにそう感じた」

前編:日本とヨーロッパの違い

――あなたが感じた違いとは?

フィリップ:
「ヨーロッパでは、ドライバーはエンジニアと一緒にいる時間がすごく長い。データを分析しながら、とことん話し合うんだ。僕の時代の日本は、そうじゃなかった。もちろん日本でもエンジニアとドライバーが話し合うんだけど、どちらかと言うとエンジニアが黙って『はいはい』と聴いているだけという印象だった。もちろんこちらでも、エンジニアはドライバーの言うことにはしっかり耳を傾ける。でもそれと同時に、データを一緒に見て、じっくり話し合う」

――将来F1を夢見る日本の若者に、アドバイスするとしたら?

フィリップ:
「できるだけ早い時点で、ヨーロッパに出ること。それしかない。その最大の利点は、とにかく連日走れることだ。日本の下位カテゴリーは、周回数が少な過ぎる。レース数もテストも少ないからね。それがヨーロッパだと、カテゴリーによっては冬のテストで30日ぐらい、あちらこちらのサーキットでテストする。それだけでもずいぶん違うのは、わかるだろう」