HondaモータースポーツF1ルーベンス・バリチェロ『自らを語る』

 「タイトル獲得に向かって戦うこと。Hondaと共に勝利を目指す」
こう語るのは、今年からHonda Racing F1 Teamに加入したルーベンス・バリチェロ。ジェンソン・バトンとタッグを組んで、優勝を目指す。
 Hondaは昨シーズン終了前に2006年シーズンを戦うドライバーを発表、優勝争いに向けて体制を立て直した。BATからチームの持ち株の残りを買い取り、チーム名も「Honda Racing F1 Team」と変更した。2000年に第3期F1グランプリ挑戦を開始してから7年目。時間はかかったが、ようやく勝利を現実のものと考えることができるときを迎えた。
 そのチームで初優勝を託すドライバーに、キャリア9勝、F1グランプリ参戦13年の経験を持つルーベンス・バリチェロが選ばれたのだ。今回から当ホームページでルーベンス・バリチェロのコラム連載を始めるが、その第一回目は彼にホンダ・レーシングF1・チームに参加した経緯を語ってもらうことにした。2006年1月のバルセロナ・テストを終えた後、話を聞いた。

 

―― ホンダ・レーシングF1・チームに加入した理由は
ルーベンス・バリチェロ(以下RB) Hondaは若い頃の僕にとって非常に大きな存在だった。僕がF1グランプリに参戦する前から、同郷の先輩アイルトン・セナにHondaの話を沢山聞かされていたから。僕はここ何年かB・A・Rと話し合いを続けてきて、今回チームに加入することを決めた。加入の決め手になったことは、チームが勝利を真剣に考えられる体制になったからだ。それに、これも同郷の先輩ジル・ド・フェランが同チームでスポーティング・ディレクターを務めており、彼からの誘いもあった。彼がチームの長所や短所を洗いざらい話してくれ、短所を少しでも良くするために助けてくれと言われた。その正直な気持ちが気に入ったし、僕の力を信じてくれたことが嬉しかった。

―― アイルトンからHondaに関して聞いた話をもう少し聞かせてください
RB  アイルトンがマクラーレンにいた時、多分91年だったと思う。彼は、クルマもまあまあだったが、あのエンジンがなければタイトル獲得はなかっただろうと言っていた。アイルトンは他にも、Hondaのエンジニアの仕事に対するスタンスを非常に高く買っていた。本当に彼らは一所懸命仕事をする、と事あるごとに言っていた。それに、日本人の考え方はブラジル人のそれに似ているから、仕事はやり易いとも。とにかく、Hondaのレースへの関わり方が強烈に印象強かったようだ。

―― そうしたことが、あなたの気持ちを後押しして今回のHonda Racing F1 Teamへの加入が決まったのですか。
RB  そう。Hondaも僕も目指すものは同じ。勝利だ。ライバルに比べてまだ若いチームだけど、学ぶだけの時間はあったはず。そろそろ勝ち始める時期だと思う。それは、チームが勝てる体制になったということで、僕はチームに加わるにはいまがちょうどいいタイミングだと思ったんだ。チームも若いけど、僕もまだ若いし、タイトルに向けての戦いを前向きに考えることができる。Hondaも大きなチームになった。1台のクルマに携わるスタッフの人数や規模も、フェラーリに劣らない。それに、素晴らしい基礎がある。僕は、1回勝利を上げることができれば、その次さらに勝利を重ねられると信じている。

―― これまでずっとあなたのキャリアを見てきました。ジョーダン、スチュワート、そしてフェラーリ。特にフェラーリでは6年間を過ごしましたね。
RB  フェラーリは最高のチームだし、そこでミハエル・シューマッハのチームメイトを務めることは、望んだからといって簡単にできるものじゃない。ミハエルと仕事をして、難しい時もあれば最高の時もあった。9勝もあげられたし。正直言ってフェラーリでトップを走るのは最高だ。だけど、もう今はその仕事は終わったと思っている。ひとつの仕事が終われば、次に進むしかない。僕にとってHondaが進むべきチームだったということだ。今は、Hondaで頑張ることしか頭にない。

―― すでに先月からHonda Racing F1 Teamで仕事を始めています。チームメイトのジェンソン・バトンについて聞かせてください。
RB  ジェンソンがHondaに残った気持ちは良くわかる。恐らく彼はHondaが勝てるチームになったと判断したんだろう。僕も、彼が残ってくれて良かったと思っている。彼は若いし、速いし、Hondaのことを良く知っている。僕は彼から吸収することが多くあると思っている。チームはリラックスしていて、とてもいい雰囲気だ。僕は仕事を楽しんでいるし、分からないことは納得するまで質問している。だから、半端じゃないよ。もう随分長い間このチームで仕事をしているような気がしている。

―― フェラーリから移ってきて、Hondaにあわせるのは大変だったんじゃないですか。
RB  いや、正直言って思ったより簡単だった。黒と白みたいに違うかと思っていたら、そうでもなかった。時間がかかると思っていたんだけど、割とすんなりと溶け込めたと思っている。Hondaの日本人技術者ともリラックスして仕事ができるしね。自分がエンジンやクルマに関してどう思っているかを気軽に言える雰囲気がある。いい感じだよ。

―― 正直なところHondaのエンジンはいかがですか。
RB  まだあまり走っていないけど、いい感じだ。今年用のRA106はすでに去年のハイブリッド車より良くなっている。セットアップもなしで良いタイムが出せた。期待できると思っている。

―― こんなにポジティブな話ばかり聞けるとは思っていませんでした。開幕戦バーレーン・グランプリを楽しみにしています。いきなり勝つなんてこともあるかもしれない。
RB  勝つつもりで行くんだからね。応援よろしく頼むよ。

 

というわけで、ルーベンス・バリチェロは全身全霊をHonda Racing F1 Teamに捧げたように思えるインタビューだった。Honda Racing F1 Teamにとれば、彼の9勝の経験は大きな意味を持つ。勝ったことのあるドライバーの存在は、チームの士気を大いに盛り上げるからだ。反対にバリチェロにとれば、アイルトン・セナから話を聞き続けたHondaで走る事は、また特別な意味を持つはずだ。二つの要素がうまくひとつになれば、今年は素晴らしいシーズンになること請け合いだ。

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