(佐野彰一×高木理恵)
――いろんな苦労を乗り越えて、やっとできたHondaのF1マシン。それはもう大騒ぎ状態だったことでしょう!
で、その記念すべき日、何かセレブレーションをされたのでしょうか?
「初めてレースに出るクルマができあがったから、記念撮影をしようという話になりましてね。研究所の中庭にF1を引っ張り出して、町の写真屋さんを呼んだ。それで、できあがったときはフルカウリングのF1だったんです、キャブから車体の下の方まで全部カウルで覆ってあって。そしたら、後ろから見るとクルマが真四角でね。まあ、カッコいいとはいえなかったんですが……(笑)」
Honda F1が、初めて日の目を見た歴史的な日。しかし、中庭に引っ張り出されたその処女作を見て、本田宗一郎さんの雷が落ちた。
――そうなると、黙っていられない人がいますよね!(笑)
「そう!本田さんが『なんだ、この犬小屋みたいのは……!』って怒り出しちゃってね。あまりにもすごい剣幕で怒るんで、呼ばれてきていた写真屋さんが震えちゃって、古い三脚立てて、黒い布を被って待ってたんですけど、そのまま逃げちゃいました(笑)」
――ワ、お気の毒!でも、それくらいにコワかったんでしょうね。
「ええ(笑)。でもね、本田さんがエライのは、ちゃんとフォローというか、アイディアを出してくれたことですね。フルカウルにすると真四角になっちゃってカッコ悪いから、下の方を切っちゃえって。そうすると(車体の)上の方が丸くなって、なんていうのかな、ずっとカーブが続いて、機能美という感じになったんですよ。
もう最初はマジメ一辺倒で、空力だけ考えてやってたから、それでカウルを全部、下までやったのかもしれないですね。だから、前の方は丸い車体が、後ろだけ四角くなってね。まあ、たしかにみっともなかった、あれは(笑)。それで、怒られちゃいましたけど、でも本田さんはけっこうデザインのセンスがあったなと思いますね……」
中庭で写真を撮ろうと決めたときは、本田宗一郎さんも、かなり上機嫌だったはず。でも、妙に四角いF1マシンを見せられて、ガラッと表情が変わったんでしょう。 これ、マシンはポテンシャルも大切だけど、やっぱりレーシングカーとしてカッコよくなくちゃいけないという本田さんのこだわりを感じさせる、微笑ましいエピソードですね。