技術研究所の分離・独立 / 1960

企業発展の原動力となる技術研究所の在り方を求めて

技術研究所の分離・独立 / 1960

幻の技術研究所

1962年の初頭、東京都内にて、財団法人創成会の設立発起人会議が開かれた。その際の議事録によれば、議長の川原福三氏(元、三菱銀行副頭取で当時、三菱金属取締役)の提案で、藤澤武夫(当時、専務)は同会設立の趣旨について、次のように説明の口火を切った。

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財団法人・創成会の設立趣意書と設立発起人会議の議事録の写し〔資料提供 伊達たすく(たすく)氏〕

「新法人の設立には二つの狙いがある。第1は、自然科学、および人文社会科学、特に技術振興等に関する研究、あるいは研究助成等をなし、文化の向上に寄与せんとするものである。第2は、本田技術研究所の全株式の半分を基本財産に提供して財団法人を設立することによって、技術研究所本来の使命を十分に達成せしめ、以って社会に貢献せんことを期するものである」。

1960年7月に本田技研から独立して設立された(株)本田技術研究所の株式は、本田技研50%、残りの50%を本田宗一郎と藤澤武夫が折半で保有していた。この本田・藤澤両人の保有している株式を基に、創成会を設立しようというものであった。

藤澤の説明は、第2の狙いについて多くの時間が割かれた。技術研究所の自主性の確立、研究員各自の尊厳の保持がなされなければ、立派な研究成果を期待することは困難であることを強調。そのためには仕事の形態が異なる製造・販売・経理部門等と同一の組織から、研究部門が独立しなければならないこと。従って、本田・藤澤の保有している50%分の株式を基本財産として財団法人を設立し、これを永久に安定保持することで、本田技研という大株主に対抗する勢力をつくること。それによって互角の勢力を持ち、互いの干渉・圧迫等を排除し合い、各自の自主性を十分に発揮することで、技術研究所の著しい成長が期待されるとした。加えて、このような技術研究所の形態は、製造会社の技術研究所の在り方としては理想的なもので、その真価はやがて社会一般の認識を得るものとなり、これに類する形態の技術研究所が相次いで出現するであろうと述べた。

説明を聞き終えた川原氏は、藤澤の創成会設立に対する熱意と独創的な着想に敬意を表しつつも、第2の狙いに重きが置かれていることに懸念を示した。つまり、新法人が、本田技研と本田技術研究所の繁栄のために設立されるもので、第1の狙いは派生的なものとの誤解を招きかねないというのである。

このような議論を経て、創成会の設立趣意書、理事・評議員候補の審議が行われ、川原氏を設立代表者として、文部省へ法人の設立許可申請を行うこととなった。

当時、本田技術研究所取締役として創成会理事に推挙されていた伊達たすく(たすく)は言う。
「あの時に初めて、藤澤さんの技術研究所に対する高邁(こうまい)なお考えの全貌が理解できました。藤澤さんは昭和30年の初めごろから技術研究所の在り方について、いろいろとお考えになっていて、昭和35年7月には独立して(株)本田技術研究所と成し、その仕上げとして株式の50%を創成会に持たせようとしたのです。創成会の運営を技術研究所の役員・従業員代表に任せることによって、他社には見られない独自の、かつ強力な技術研究所をつくり上げようと試行されたのでした」。

しかし、この創成会は日の目を見ることはなかった。アメリカン・ホンダ・モーター設立、マン島TTレースでの完全優勝など、1962年初めには、Hondaは名実共に世界一の2輪車メーカーとなり、4輪業界への足掛かりをつくりつつあった。このころ、世界的規模での資金調達を図るために、米国・ニューヨークでADR(米国預託証券)を発行する準備が進んでいた。その中で、引き受け会社であるゴールドマン・サックスより、本田技術研究所の株主構成を本田技研50%、創成会50%としようとしていることは、ADR投資家の誤解を招きかねず、将来、問題を引き起こす源になる恐れがあるとの警告がなされたのである。

「本来、本田技研の子会社であるべき技術研究所が、本社のコントロール外に出ることは常識では許されないことで、ADR発行の条件として、創成会の構想は全面的に否定されてしまったのです」(伊達)。

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